「建築構造物の耐震性確保のための提言」
「耐震設計偽造に関する研究集会」11月21日(月曜日)の議論をふまえて

2005年11月29日(11月24日に提言案を発表)
NPO法人建築技術支援協会
 文責:和田 章、安部重孝、米田雅子

10. コンピュータ時代が生んだ問題
一貫構造計算プログラムの評定は1970年頃に始まり、プログラムそのものの信頼性確保には役立ったといえるが、国が「プログラム部分の図書省略」という形でプログラムの内容を保証したことになり、確認機関では計算部分を詳細に調べないようになってしまった。数字の羅列の出力は無機的で構造設計者の想いは伝わり難い。例えば、構造計算書の要点の部分に手書きのスケッチや計算を書込み、コンピュータの出力と同様の結果が得られることを示す、建築物の全コンクリート体積を床面積で除して求めた平均コンクリート厚さ、全鉄筋重量をコンクリート体積で除した値などを手書きで書込むようにするなど、全体的な数値の把握をすることが必要である。
大きな建築物を建設するためには長い期間と多くの人の手がかかる。この度の事件の問題は、構造設計者の行った偽造がこれらの後工程の人々によって発見されなかったことにもある。コンピュータ時代には、実際にものに触らずに仕事が進むことが多くなり、実感が無いままに大きな建築物が建設されてしまう恐ろしさがある。すぐに解決する方法はないが、仕事の流れの中に人間が直接入るような仕組が必要であろう。

このことは、発注者,設計者、確認審査、施工者、施工監理、中間検査など全体の大きな流れまで考慮すると、なおさら誰も気付かなかったことが大きな問題となる。この度は構造設計者の悪質行為が問題になっているが、発注責任、設計責任、施工の責任など問題点を整理する必要がある。