サーツ討論会:「改正基準法(構造)への提言」

サーツ討論会:「改正基準法(構造)への提言」

2000年6月に施行された建築基準法の改正は抜本的なものであり、その対応をめぐり建築界で議論が盛んに行われています。構造分野においては、一般の構造設計者、創造性を重視する構造設計者、構造技術研究者、行政担当者等が、各々の立場により若干異なる議論を展開しています。私達は構造技術者として、社会が求めている建築物の性能を分かり易い方式で提供するためには、その対応の方向を見出すことが大切であると考え、表記の討論会を2001年2月7日に開催しました。
討論会では、神田 順、山口昭一両氏の主題講演の後、この両氏に金箱温春、北村春幸、春原匡利の各氏を加えた5名をパネリストとして矢野克巳の司会でディスカッションを行いました。ここでは多くの有益な意見が活発に交換され、会場からも熱心な質問や提案を頂きました。
この討論会の内容を踏まえ、我々は建築界への提言をまとめました。提言が社会ニーズへの建築界の積極的な対応を促す一助となれば幸いです。

提言にあたり、パネリスト、司会者の全員に共通する基本的な姿勢は次のとおりです。
1. 建築に携わる者は、良い建築を創ろうとする強い意識と高い倫理性を保持する。
2. 建築基準法の「国民の生命、健康、財産を保護し、公共の福祉増進を図るための最低の規準を定めたもの」という原点に常に立ち戻る。
3. 建築に携わる者は、建築および建築に係る行為に関し、一般市民にわかり易く説明し、理解を得ることに努める。
4. 設計法は、建築基準法により定められるものではなく、設計者が決めるものである。
5. 建築物やその生産過程の多様化に対応可能な行政体制や保険等による与信の確立が必要である。
この姿勢にたち、討議をもとに、次の8項目の提言を致します。

改正建築基準法(構造)への提言
1. 構造技術者は、情報開示と自己責任体制を求めている社会の要請に積極的に応えるようにしなければならない。構造設計者は法令が変わっても、設計の基本は変わらないことを認識し、多様な性能設計に対応できる技術能力を持ち続けるように努める。
2. 法改正に際して、パブリックコメントの創設は評価できるが、より多くの意見交換と情報公開が行われることを期待する。
構造設計者は法令の改正に際しては、意見を公表し適切な法令となるように積極的に働きかけるように努める。
3. 構造研究者は、性能設計を支援する建築工学上の調査・研究を進める。
4. 建築主事は、建築確認において法の基本を遵守しつつ、自由な性能を目標とした多様な設計に対応できるように努める。
5. 建築基準法においては、考え方を法令で定め、詳細は弾力的判断・運用が可能な体制が望ましい。性能の検証について、複数の検証法を認める今回の改正は評価でき るが、更に自由度が増す方向を希望する。
6. 法令で定める性能のレベルに関しては、社会的コンセンサスを得るように配慮し、
   その根拠や考え方を明らかにしておく。
7. 建築基準法改正の主旨を活かすには、建築士制度、確認制度の見直し、設計者、行政の責任についての社会機構の見直し及び構築が必要である。
8. 地方自治体が「まち」をまもる観点から、検証に用いる荷重や「まち」としての重
  要度係数等について、地域性を考慮した適切な規定を検討することを期待する。