`BIG EGG’の愛称で東京ドームがその偉容を現してからはや20年になろうとしている。今でこそ見慣れた光景であるが、当時空気膜構造の大規模多目的施設の出現は驚きであったろう。膜構造による大規模恒久建築物は米国などで先行していたが我が国では初めてのことで、恒久建築物として認められるまでには多くの技術的課題があり、多年にわたる研究開発を要した。
私が所属した技術研究所の材料・構工法分野は、膜材の特性把握、構工法の検討などを担当することになった。 芯材のガラス繊維織布及び樹脂コーティングの検討は、構成材料、製法の把握、特性評価など初めてのことの連続で、戸惑いと新たな興味のない交ぜであった。また、米国での情報収集では日本への情報提供が彼らにとってなんらメリットがないことを言及されることもあり、技術的観点以外への配慮の必要性を改めて感じた。
これを端緒にその後、種々の多目的施設に用いる材料・構工法の技術検討に参画することとなった。
次の課題は多目的施設用の人工芝の研究である。既に野球をはじめいくつかの競技場で人工芝が用いられていたが、多目的施設としてサッカーなど他の競技にも適したものにしたいとの要望があった。
ここでも、当該競技の競技者やボール等の動き、そのために必要なグラウンド面の特性のあり方を知ることからのアプローチであった。試合の観戦、選手へのヒアリング、この分野の専門家の教示などを経て、当該競技に適応するための特性と仕様などを検討した。製造者の努力で相当改善された現在の人工芝は、独自の利点も少なくない。
更に、開閉式屋根の重ね部に用いる大規模ガスケットの技術検討に参画した。これはアクティブに作動する複雑な形状のチューブ構造で、空気の注入・排出により閉時の水密性、開時の作動性を確保するものである。原理的には簡単に思えるが、自転車のチューブを扱うようにはいかない。しかしながら設計者を中心に関係者の英知とアイディアを結集し所期の目的を達成するものが出来た。
これら通常の建築物では対象とすることがない一連の研究開発を経験したことで、担当分野では大概のものに対応できると思えるようになったことは無形の成果として大きかったといまさらながら感じている。
写真1 東京ドーム内観 写真2 施工の状況(当時;海外) |