「航空機の衝突実験」・・・・・・ 菅野 忠


 原子力関連施設から、そう遠くない所に戦闘機の訓練施設があり、万が一の事故で航空機が原子力関連施設に衝突したらどのようになるかを検討することになった。
 航空機が衝突した場合、一番問題となるのは機体の中でもっとも剛性も強度も高いエンジン部分が、建物外壁を貫通して建物内に破片が入ってこないかということである。
 そこでこの種の実験が可能な、米国ニューメキシコ州にある国立サンディア研究所に実物のエンジンを入手してもらい、コンクリート版の厚さ、鉄筋の配筋、鉄板によるライナーの有無をパラメータとしてし衝突実験を行った。
 この実験が最終段階に入った頃、米国側より航空機そのものを衝突させてみないかとの提案があった。私共は150億円以上する実物のファントムが使えるなんてことは夢にも考えていなかったので返答に困っていた。そうこうしている内に、サンディア研究所より航空機が無償で手に入ったとの連絡が入ってきた。どのようなことかというと、米軍の武器、弾薬等は使用期限をあらかじめ決めており期限が来たら、たとえ使用可能であっても廃棄することになっているらしい。入手したファントムも期限がきたのでアリゾナ州の戦闘機の墓場に行くはずであったが、航路を変えてサンディア研究所に隣接する空軍基地に着陸してくれた。
 実験は航空機を後ろからロケットで押して所定の速度(215m/秒)になったら、ロケットを切り離し、前方の空気バネで浮かしたコンクリート塊に衝突させて、衝撃荷重の時刻歴を計測したものである。
 写真は、衝突の様子を高速カメラで撮影したものであるが、航空機がコンクリート塊に吸い込まれているように見えるが、壊れた破片は全てコンクリート塊の前方に落下している。