限界耐力法・・・・・菅野 忠

(1)性能規定化の背景
 今回の建築基準法の目玉は、建築基準法を性能規定化することだと言われている。では、「何故この時期に、性能規定化されねばならなかったのか」の問いから考えてみよう。
 まず、最初に考えられることは、建築主、ユーザあるいは社会のニーズの多様化である。建築物に高度の安全性、高度の機能性あるいはより快適な居住性を求める建築主・ユーザがでてきた。また、ライフサイクルコストの考え方の普及により、建築物の性能をはっきり知り、その性能に見合ったコストで契約する傾向が顕われた。このような建築主のニーズの多様化に対して、建築基準法を満足しているという単一の性能だけでは対応できなくなってきた。
 一方、従来の建築基準法の問題点として、多数の仕様書的技術基準があり、それらの仕様書的基準はどのような性能を担保しているかの記述がないため、設計された建築構造物の性能が不明確であった。また、仕様書的基準は、新しい材料、構造方法を導入しにくく、構造技術の進歩を阻害する側面をもっていた。このような背景のもとで、性能規定化に踏み切られた。
(2)性能設計における構造設計の流れ
 性能設計における設計の流れは、図―1に示すように、
1.まず、設計者と建築主の合意により、目標性能・要求性能を明確化する。この際、社会的な最低限の要求性能として建築基準法を位置付けている。
2.次に、構造計画、構造設計を行う。構造設計・計算の方法は自由に構造設計者が選べば良い。今回、建築基準法に組み込まれた「限界耐力法」は性能設計に適した設計法として開発された一つの方法である。
3.最後に、設計された建物が、目標性能を過不足なく満足していることを確認する。
(3)性能設計における設計クライテリア
 性能設計におけるクライテリアを耐震設計について例示すると図―2のようになる。即ち、最低限の要求である建築基準法では、
1.「稀に起こる地震」に対しては、建物には損傷を生じさせず、主要構造部は弾性内に 収める
2.「極めて稀におこる地震」に対しては、建物は倒壊、崩壊せず人命の保護をはかる。となっており、それ以上の性能に対しては、建築主との合意により決めていく。
 例えば、個人の貴重な財産であるマンションなどでは、「極めて稀に起こる地震」 を受けても、地震後に多少の修復で継続的に使用したい場合には、図中のA―A―A のクライテリアを選択することになる。
 このクライテリアを、建物の復元力曲線上に概念的にプロットすると図―3となる。

(4)限界耐力法の特徴
 性能設計に対応する一つの設計法として、告示に限界耐力法が規定された。その設計法の流れを図―4に示す。ここでの特徴的なことを以下に箇条書きで記す。
1. 地震動を工学的解放基盤でのスペクトルの形で定義している。このことにより、敷地地盤の影響や地盤―建物の相互作用を取り入れ易くしている。
2. 建物の多質点系の弾塑性地震応答解析をするのでなく、等価1質点系で近似した応答スペクトル法による。等価1質点系に置換するにあたって、予備設計された 建物の静的漸増解析を正確に行う必要がある。この静的漸増解析から、損傷限界耐力、 損傷限界変位、損傷限界固有周期、保有水平耐力、安全限界変位、安全限界固有周期を求める。この際、特に重要な部分は、構成部材の終局限界変形を評価し、建物の代表変位の安全限界変位を求めるところである。
3.建物に作用するせん断力と変形は、等価1質点系の復元力曲線と地振動のスペクトル ( Sa―Sd)の交点として求めるが、スペクトルは減衰定数の関数であり、減衰定数は、構造物の塑性率の関数であるので交点を求めるには、収斂計算が必要であるが、告示では収斂計算を省略している。
                      
4.収斂計算を省略したままで必要保有耐力を求めているため、必要変位が曖昧なままで終わっている。この最も重要な変形量をもう少し明確に規定しておくべきであったと思われる。