- 「解体研究会発足」 ・・・・・東京大学大学院新領域創成科学研究科 助教授 清家 剛
- 建築を造るときと壊すときの環境負荷を研究している私は、今年になって、東京都立大学の角田誠助教授、東京理科大学の名取発助手と3名で「解体研究会」を発足させた。
これまで建築の環境負荷評価を行うときに、ライフサイクルで評価することが大事であると盛んに言われてきた。しかしその場合廃棄物処理の観点からも、解体工事の評価が重要であるにもかかわらず、これらの正確なデータが示されていないのが現状だった。そこで我々が「解体研究会」を名乗り、解体についての調査研究をしようと宣言してみたのである。「言うだけならただ!」の精神でとりあえず旗揚げしてみたところ、あっという間にいろいろな情報が飛び込んできて、いくつか実プロジェクトとして動き始めた。
我々が大学の研究室で行う解体工事研究の中心的な課題は、大きく分けて二つある。一つは個別散在型の戸建て住宅の解体に関する研究、もう一つが改修工事における既存内装材などの解体に関する研究である。どちらも取り組む主体が少ないことから課題として取りあげており、大規模建築物の解体についてはしっかりとした組織が取り組むであろうということで、中心的課題とはしていない。
まず実際のプロジェクトとして調査・研究を行ったのが、浦和S邸解体工事である。この建物は、区画整理事業の関連で解体に時間をかけられるという好都合な木造戸建て住宅であり、また築22年という今後解体されるであろうと予測される時期のものであった。本研究については、独立行政法人建築研究所と共同研究体制をとり、各種建材の業界団体などにもご協力いただき、内外装材を丁寧に分別する場合と、躯体の木材をできるだけ再資源化しやすくする場合を想定して、徹底的に分別解体を行った。結果については速報を戸建住宅部会で報告したが、その後別の木造の解体や、改修工事関連の調査が候補にあがってきて、研究会としては広がりを見せそうである。
「解体」のことばかり書いてきたが、最近取り組んでいる別のテーマの話もしたい。まずは歴史的建造物の保存に関わる意思決定プロセスの研究を行っていることである。昨年度は伝統的木造建築物の耐震補強に関して研究を行った。今年度は旧同潤会大塚女子アパートメントの保存運動に関わりながら、その保存に関する様々な提案の検討プロセスを記録している。また、商業建築を通じて建物の更新や寿命についての研究も行っている。これらもすべて、建築物の総合的な環境負荷評価につながる基礎的な研究と考えている。
最後に私の長い所属名についても説明します。サーツ会報Vol.7の「ミレニアムに想う」の原稿で神田順先生が紹介されているが、新領域創成科学研究科環境学専攻は、東京大学が平成11年度に学融合を目指して造った新しい大学院であり、環境という広い分野に取り組むために、工学、理学、農学、文学、経済学など様々なバックグラウンドを持った研究者が集まった組織である。現在は本郷キャンパスにいるが、平成17年度中には柏キャンパスに移転する予定である。数年後には大きく生活は変わるが、現在の情熱を保って、前向きに研究を進めていきたい。
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- 浦和S邸の解体途中風景
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- 浦和S邸での調査風景
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