- 日本建築学会賞(論文)「建築構法計画・設計・開発に関する一連の研究と関連データの再構成」のあらまし・・・・東京工芸大学 教授 大野隆司
- 編集の伊藤さんの依頼文には(仮題、ご都合のよろしいように)とありましたが、“来るもの拒まず”がモットーで、そのまま表題とさせて頂きました。今回の受賞は全く予想外のことで、(ラグビーに関しては自慢の“勝”がありますが)建築に関して、これまで賞とは全く縁がなかったこともあって、驚きとともに単純・素直に喜んでおります。大学卒業後の研究室・事務所での実務経験をベースに書いた著書が評価されたわけで、運がよかったと思う気持ちとともに、皆様のお陰と、深く感謝しております(恩師・先輩・同僚・後輩、スポンサー、家族、その他いろいろ恵まれたとつくづく思っています)。建築雑誌8月号に学会賞「受賞所感」が掲載されていますが、この会誌は字数が倍以上ありますので、関連写真とともに説明を付加する形で“再構成”しました。
- このたび、日本建築学会賞(論文)を受賞することができ、大変光栄に思っております。これまでお世話になった方々に厚く御礼申し上げます。特に内田祥哉先生には大学院進学以来、様々な機会を通じてご指導いただき、深く感謝しております。
「建築構法計画」は「実際に物として生産可能な範囲で(生産面のアプローチ)、要求される性能・品質をバランスよく満足するように(機能面のアプローチ)、建築物および各部の材料の構成について大筋の方針を定める一連の作業」で、構法設計・開発はそれに基づいて実施を前提に詳細をつめることです。ここでいう材料の構成は“材質”を代表する材料(種)と“材形”を示す寸法とで表すことができ、「建築構法計画」の本質は寸法を通じて材料を位置付けることにあると考えています。
本論文のベースは、
1)研究室を中心に続けてきた構法理論や定石に対する検討結果、
2)建材メーカーや住宅メーカーの方々と共同で進めた部品や構法の計画・設計・開発を通じて得られた知見や成果、
3)それに各種の関連分野における成果のうち計画段階で実務上有効と思われる基本事項、
の三つから成っています。
本論文は大きく2編に分かれていますが(目次参照)、第1編の1〜15章は部位・部分別に、仕上げ・下地・各部躯体の性能と寸法などからなる基本構成と、取合い・納まり例・サブシステム化の度合いなどからなる生産・施工の、両面から記述しています。
部位・部分のうち勾配屋根、階段、設備、それにエキスパンションジョイントについては、これまで部品・構法の開発経験がありません。記述ネタは主として文献ですので、他の部位・部分と比べるとやはり迫力に欠けるように思います。それにしても今から考えると浅薄な知識・技術にもかかわらず、いろいろな部位・部分に関わってきたものと感心するともに、各種の勉強期間を含めてご後援いただいた、当時のスポンサー企業の度量の大きさに改めて感謝する次第です。
第2編の16〜25章は統計学から耐震・耐風工学、環境工学などまで、構法の計画・設計・開発に際して参考となると思われる基本事項を抜粋したものが中心となっています。多くは専門外の分野ですが、実用性という観点からは各種成果を総合的に扱うことが必須であり、数値データを含めて再構成し、資料化したものです。
「建築構法計画」は建築計画学だけでなく、建築構造学や環境工学、あるいは材料施工学など、様々な分野の成果をベースに成立するものであり、特に構法の設計・開発までを含む実務での応用を考える場合、これら分野での成果の把握・総合は欠くことができないと考えております。
日本建築学会に構法計画関連の委員会が設置されてから、おおよそ30年が経過しておりますが、これまでに当該分野のみならず、建築の様々な分野で「建築構法計画」に資する多くの成果が得られてきています。近年における建築基準法や各種の設計における仕様規定から性能規定への変化、あるいは「住宅の品質確保の促進等に関する法律」などに代表される性能表示・評価などは、その種の成果を背景にした顕著な動きの一つといえましょう。
このように世の中一般においては性能や構法への関心が高まりつつあるのに対し、建築サイドにおいて構法理論・定石や標準詳細、あるいは構法の計画から設計・開発の結果である構法事例を、関係する成果やデータによって説明し関連づける試みは、未だ十分なレベルにまで至っていないと考えています。そして様々な分野での成果を総合的な視点から構法の計画・設計・開発に資する形で再構成する試みも、建築研究所の材料設計グループを中心とした活動を除いて、ほとんど無かったように思います。
本論文執筆の端緒は、The American Institute of Architects「ARCHTECTURAL
GRAPHIC STANDARD」(写真参照、我が国の「建築設計資料集成」の1.環境と10.技術とを合わせたような構成ですが、内容はより豊富で、かつ充実しています)の構法関連頁です。その日本版として、比較的新しい構法を中心にEdward
ALLEN「ARCHITECTURAL DETAILING」(写真参照、もともとイラストの巧さでは定評のある著者ですが、この本は内容も充実しており刺激的な示唆に富んでいます)などに倣って、できるだけ理論的かつ定量的裏付けとともに示すことを心がけました。
執筆にあたって、その他に留意した点は出典を出来るだけ明らかにすることでした。各種の成果を構法計画の資料として再構成するという本の性格上、データをそのまま転載させていただく引用や、データを他の資料と組み合わせたり集計し直したりして用いる参考など、さまざま形で利用させていただいております。文献を調査する中で、孫引きの際に生じたと思われる数字の転記ミスや断面線と外形線との取り違えなど、相当いろいろみつけました。また、構法の定石としてもっともらしい数字とみえたものが、インチではラウンドナンバーのものをセンチに単位換算した結果、そうした数字になっただけだったなど、貴重な?発見もいくつかありました。ミスを完全に無くすことは不可能です。出来るだけ早くにミスの伝承を防ぐ意味からも引用・参考の出典を明らかにするということ(当然のことですが)を重視したつもりです。
本論文は「建築構法計画資料(改訂版)」(写真参照)の名で市販されております。構法に関する工夫の理論的解明や検証の一層の活性化を期待するとともに、会員諸兄のご批判ご叱責をお願いする次第です。
(と結んでいますが、執筆にあたってもう一つ留意した点があります。データをできるだけ最新なものにするということです。計画資料としての成果・データは日進月歩です。数年に一度は改訂したいと思っていますが、そのためには本が売れる必要があります。在庫が無くなって始めて改訂が可能となるからです。ご批判ご叱責の前段階としてのご購入をそれとなくお願いしています)。