「柴又帝釈天・彫刻ギャラリー」の設計・・・・ 岡田勝行

 京成柴又駅を降りると、駅前広場に銅像で立つ寅さんが、例のスタイルで皆さんを迎えてくれます。下町情緒あふれる店、店を楽しみながら参道を真っ直ぐ行くと、もうそこが柴又帝釈天です。
 このお寺は、寅さんの映画の世界でも大事な舞台ですが、彫刻のお寺としても広く知られています。特に帝釈堂周壁にある彫刻は有名で、当時の名人彫刻師がふすま大の欅材の一枚板に渾身の力を込めて彫り上げた浮き彫りで、それは見事な傑作です。
 文化財として価値の高いこの彫刻が、長い間風雨に曝され汚損が進行していました。更にこの彫刻を鑑賞するには、回廊からの目線が近過ぎて全貌が見渡せないことと、手摺が低く安全上の問題もありました。
 この様なニーズから、この設計がスタートしました。まず彫刻の外周をフレームレスの大型ガラスで覆い、内部では現回廊の外側に鑑賞し易いよう回廊を新設しました。帝釈堂に差しかけ式とした主体構造は、人に触れて優しいよう鋼管の丸柱を採用しました。 ギャラリー内の空間構成は、寺院という伝統的な木造空間と遊離しないようその連続性、一体感などを演出しました。まさにこの彫刻ギャラリーは、伝統的な空間と融合を図った現代の覆堂ともいうべきでしょうか。
 帝釈堂周壁の彫刻は全部で十枚あり、三車火宅図など法華経の有名な説話をテーマにしています。  
 この彫刻ギャラリーの法華経説話彫刻をご鑑賞に、是非いちど柴又帝釈天をお訪ねください。

   
外観−帝釈堂をフレームレスの大型ガラスで覆う
内観−新設の回廊から彫刻と旧回廊を見る