建築確認・検査等について・・・・・奈良幹雄

はじめに
 今回の建築基準法改正は、昭和25年の制定以来の大改正である。
 「住宅居室の日照規定の廃止」が平成10年6月1日、「建築基準法の一部を訂正する法律」の公布と同時に施行された。「建築確認・検査手続きに関する事項」、「準防火地域における木造3階建て共同住宅に関する規制の緩和」、「連坦建築物設計制度等集団規定に関する事項」が翌年の平成11年5月1日に、そして平成12年6月1日には「性能規定など建築基準法体系の変更に関する事項」が施行された。今やその全部が動き出した。この抜本的な改正のうち、建築確認・検査の部分について以下に紹介してみたい。
1. 確認・検査の民間開放
 これまで特定行政庁の建築主事が行ってきた確認・検査業務について、新たに必要な審査能力を備える公正中立な民間機関(指定確認検査機関)でも行えることとなった。これまでの建築基準法の長い歴史の中でも最大の変革といえよう。この指定確認検査機関の動向が今大きな注目を集めている。
2. 指定確認検査機関の指定の現状
 平成11年5月1日の改正法の施行以来現在まで、建設大臣指定が6機関((財)日本建築センター、(財)日本建築設備・昇降機センター、(財)住宅保証機構、(財)日本建築総合試験所、日本イーアールアイ(株)、(財)住宅金融普及協会)、知事指定が22機関となっている。これらの機関で行う確認・検査の対象区域、建築物、手数料等については、それぞれ違っているので注意を要する。
3. 民間による確認・検査の問題点と今後の課題
 指定確認機関がスタートして約1年になるがいくつかの問題点が浮上しつつある。
 建築確認検査は指定確認機関が大臣の認可を受けた「確認検査業務規程」に基づいて民間同士が対等の立場で行うことになっている。確認検査の処理期間の短縮などサービス面の向上は図られると思われる。確認は建築基準関係規定の法的適合・不適合を判断するに過ぎないものであるが、行政事務を代行する性格から公正中立で的確かつ効率的な業務の執行が確保されなければならない。また確認検査員やこの機関の職員は公的事務につきものの秘密保持義務等が課せられている。確認検査を行う確認検査員はほとんどの機関で、旧建築主事資格者が携わっているが、法改正に伴い2年後には新たに建築基準適合判定資格者が登場してくる。この検定に合格した者がただちに複雑な建築基準法の運用に対処するのは容易ではない。これら合格者の教育・研修の必要性が大きな課題として指摘される。
 民間確認検査機関が確認・検査を実施することから、従来は必ずしも明確ではなかった建築基準関係規定が明確に規定された。しかし、各自治体の建築紛争予防条例をはじめ、指導要綱等と確認の関係については、申請者等に周知を図るなど現実問題としてその成り行きが注目されている。指定機関による確認についてはその確認が建築基準関係規定に適合しない誤った確認について、特定行政庁は確認済証の効力を失効させることができる規定がある。これに対する賠償が国家賠償と民事賠償のいずれの対象となるかは難しい。
 なお、指定機関の損害賠償能力については、機関指定要件として「確認検査業務を的確に実施するに足りる経理的基礎を有するもの」と機関指定基準に規定されている。
4. 構造方法等の認定について
 法改正に伴う性能規定の導入で、従来の法第38条の特殊な建築材料または構造方法等の認定規定が廃止された。今後、性能基準に適合することについては、例示仕様、一般的な検証方法以外の高度な検証方法については建設大臣が認定することとなった。認定の具体例には超高層建築物の認定、避難安全検証の認定、建築材料の品質の認定、耐火構造、防火設備等の認定、エレベーター、エスカレーターの認定等23項目の認定がこれに該当する。性能の評価は、指定性能評価機関が行う。平成12年7月1日現在、(財)日本建築センター、(財)建材試験センター、(財)ベターリビング、(財)日本建築総合試験所、(財)日本建築設備・昇降機センター、(財)日本住宅・木材技術センターの6機関が指定されている。
5. 免震建築物告示(案)について
 告示(案)には大きく2つのポイントがある。法第37条(建築材料の品質)に基づく、告示第1446号第一の9として免震材料が加わった。免震材料については、JIS、JASのいずれにも規定がなく告示別表第一に入ってないので告示別表第二に基づく区分に従い品質基準と測定方法等によりメーカーが実験・検査と行い、申請により建設大臣の認定を受けることになると思われる。
 免震建築物自体の技術基準に関する告示第二号は免震材料について規定されている。告示第1446号に適合し、かつ、分類に応じて、イ.支承材、ロ.ダンパーの基準に該当しなくてはならない。一般の免震建築物では、水平方向のエネルギーの吸収と鉛直力の支持を支承材が負担し、変形をダンパーで制御する方法が主流である。支承材とダンパーを組み合わせて使う方法は多いが、支承材、ダンパーのそれぞれの分類の中で違うものを組み合わせて使うことはできない。第二は免震建築物の技術的基準で、第2号、ハは形状制限を規定している。建築面積が1,000m2を超えないとあるから、大規模の建築物まで適用できる。ただし、立面形状で張り出し部分があってはならないという制限がある。平面形状もあまり長いと位相差の問題が生じるので、ニで仕様的に決められたようだ。ホは上部構造の最下階の床版の厚さ、鉄筋間隔が規定されている。
 第3号、ニの支配面積とは、一つの支承材が負担する面積ということである。これが10m2以下ということは支承材間のピッチを10m前後に想定している。ヘの規定は分かり難いのでマニュアルなどが必要になるだろう。
 今までの例では、免震材料は1.4m程度の高さに設置され、点検・交換がしやすいようになっていた。
 第4号、第5号はこの点を要求している。免震というと、RC造を想定しがちだが、木造や鉄骨造も対象となり、その場合積雪で決まる場合があるので、第7号に積雪時の規定が入っている。
 第3が免震建築物の構造計算についての規定である。ここに定める構造計算を行い、安全性が確かめられれば第2第1号から第3号の仕様規定が除外される。
 免震建築物については、第2の仕様規定による場合と、第3の構造計算を行う場合の2つが用意された。
 ただし、第3の構造計算を行う場合は、これだけでは理解できないので免震に関するわかりやすいマニュアルの策定がなされると思われる。
 免震の告示第3の構造計算の申請をするときは、事前に行政庁等とよく相談する必要があろう。
6. 既存遡及適用
 確認後に変更を行う計画変更確認は新法の適用を受ける。これに伴っていくつかの新たな問題点が生じる。例えば、5月31日までに旧法第38条による認定を受けたものについての扱いもその一つである。法附則第8条では、この附則に別段の定めがあるものを除き、改正前の建築基準法の規定によりなされた認定、申請等の処分、手続は改正後の建築基準法の相当規定によりなされた処分または手続とみなすとある。
 令附則第2条では政令の施行前に大臣が認める構造計算により構造耐力上安全であることが確かめられた建築物の構造方法は、改正後の建築基準法施行令の規定による大臣の認定を受けているものとみなすとされている。旧法第38条による一般認定は、「施行令第3章の規定と同等とみなす」とされているものが多い。この場合、第3章全体を除外しているので、新法でどのような規定が新たに第3章に入ってきても適用除外となる。一方、個別認定の場合は、「施行令第○条と同等とみなす」等のように個々の条文で適用除外しているものが多い。そこで、新法において、それぞれに相当する条文については適用除外とすることができるが、新しく規定された条文については適用となるため、認定の取り直しとなる可能性が高い。
 法第81条の2の超高層の認定については、旧法第38条の認定が絡んできた場合は、個々に検討しなくてはならない。
 計画変更の既存遡及については、現実にはなかなか難しく、運用面で考えることも必要であると思われる。
7. その他
 現在までに出た構造関連の告示は約30に上るが、今後出される告示もかなりになると思われる。
 この中には、免震、アルミ、CFT、膜構造などが考えられる。また、整合をはかるため、壁式、プレストレストなどの改正告示も予想される。一方、ステンレスについては、今まで高さ15mまでは一般認定で行われており、今回の法改正で法令上は60mまで確認で行えるようになった。しかしながら、政令は許容応力度だけで、その具体的な技術基準は示されていない。実務上はマニュアルの作成が期待される。
 鉄骨造の継手又は仕口の構造方法が告示で示された。
 溶接の場合における「適切な補強を行った場合」のパス間温度やアンダーカットなどの適切な補修方法も明確ではない。不具合は法改正による中間検査の判定項目でもあり、適切な補強方法を決める必要があるだろう。
おわりに
 平成12年6月1日、公布後2年以内分が施行された。今回の抜本改正は、全面的に動き出した。民間建築主事制度、性能規定化等社会情勢の変化に適切に対応したものであり、今後この改正の主旨を生かし行政と民間が相互に協力した新しい建築行政の発展を期待したい。