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- 昭和43（1968）年春のある日、勤務していた設計事務所「集団制作」の所長室に、私は主任と共に呼ばれた。デスクの上には「太陽の塔」の石膏模型があった。所長は『丹下先生から話があり、これの実施設計をやることになった。君達でやってくれ』という。模型は1／100、高さ70�冂�度のものである。しかし、実際の塔は高さ70mを超える。主任と私が顔を見合わせていると、所長は一言いった。『奈良君、これを100倍に拡大すればいいんだよ』。その時、私は25歳であった。吉川健所長は東大大学院丹下研究室の出身、塔の構造は坪井善勝先生の指導を受け、東大生産技術研究所川股研究室で担当されることになって、プロジェクトはスタートした。
チームに参加した植田省吾君と塔の石膏模型を1個発注し、輪切りにしてもらった。断面をトレースし、立面図と断面図を起こした。断面は胴体が楕円形、腕部分がお結び型。直線は基準線のみ、あとはコンパスとカーブ定規しか使わない製図だった。
プロジェクトには「母の塔」が含まれており、私は構造が納まるように形を修正した図面を、岡本太郎先生に承認してもらうため、模型を作りに先生の青山のアトリエに1ヶ月以上通った。先生には模型でしか承認してもらう方法がなかったのである。
「太陽の塔」の構造は基礎から高さ約32mまで鉄筋コンクリートの円筒シェル、上部は腕部分を含めて鉄骨造、内側に型枠を組みショットコンクリートである。仕上げは全体にモルタルを吹付けた上、塗装となった。正面の顔は当初PCaで製作する計画であったが、FRP製に設計変更した。この設計変更のために、私は現場事務所で二晩徹夜するはめになった。懐かしい思い出である。
塔はテーマ館の一部でもあり、内部にはエスカレーター5基とエレベーター1基が設置されている。設計過程で全体の防水をどうするかというテーマがあった。当時、探しても今でいう化粧防水材はなかった。結局、腕部分の上半分に当時開発されたばかりのウレタン防水を採用し、メタルラスを接着してモルタルを吹き付けた。最近、調べてみると、このウレタン防水は新築で採用された第1号の施工実績である。現場監理が終わった後、私は防水工事会社に転身した。「太陽の塔」は防水と躯体保護塗膜をライフワークにする、現在の私の原点にある。
大阪万博は昭和45（1970）年9月に閉幕した。「太陽の塔」は、その後30年を過ぎて、耐久性上の大きな問題もなく、今も千里丘陵に聳え立つ。「岡本太郎の最高傑作」と評価されるようになり、永久保存されると聞く。
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