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10世紀にはその存在が知られていたという「アラビアン・ナイト」の物語は、失われようとしていた古代ペルシャの物語を集めたものだという。中でも有名なのは「アラジンの不思議なランプ」の話である。そのランプが何でつくられていたか様々な議論があるが、光こそ神の姿とされるイスラームの考え方にたつと、ガラス製モスク・ランプではないかということになる。つまりこの頃には耐熱ガラスがあったことを物語っている。それどころか、BC30年ごろから約400年続いた初期ローマングラスの時代に、レンズや理化学用器具、医療器具、などがつくられていた。つまりガラスの技術は古代史の時代にその基本的なものが確立され、近代文明は量産技術を完成させたに過ぎないといってもよい。
原ガラス質が銅の精錬過程で発見されたというのはタイル（１）の冒頭でお話したが、この不完全なガラス質の原料を調整して意図的につくったアルカリ・シリカガラスは早くも紀元前25世紀のメソポタミアでつくられ、銅製のピン頭部の珠や円筒印章などに用いられている。
ガラスには異なった様々な成分を持つものがあり、現存するメソポタミアのガラスはほとんどがソーダ・ガラスだといわれているが、人気のあるボヘミアングラスはカリ・石灰ガラス、中国の乾隆ガラスは鉛ガラスである。
ガラスは始め、古代オリエントで最も珍重されたラピズ・ラズリ（ラテン語の石＝lapisとペルシャ語の青＝lajwardとの合成語）やトルコ石など貴石の代用品として用いられていた。成型には金属の鋳造技術をそのまま使って、鋳型でトンボ玉や魔よけの護符などをつくり主に装身具にしていた。年代の確認できる最古のガラスは北メソポタミアからアナトリア、シリア、パレスチナにかけてのBC1600~1500年代にかけての地層から発見されている。BC1600年ごろには、メソポタミアに侵攻したエジプトのトトメス3世がガラス職人を捕虜として連れ帰り、エジプトで美しいガラス容器がつくられるようになった。エジプトにはガラスの原料になる天然のソーダが豊富にあったのだ。
装身具の次には小さな容器がつくられた。製法は鋳造法の他にコアガラス技法といって金属棒の先にぼろ布を巻きつけ、その上に耐火粘土を被せて容器の型を作り、これに溶融したガラスを巻きつけて方を整え、表面が硬くなったところで砂に埋めて温度を徐々に下げ完全に冷えたところで芯を抜き取ってつくった。
耐火粘土が割れ、あるいは重くなるのでさすがに大きなものはつくれなかったが、小さな美しい香水瓶などが沢山つくられている。土壌が乾燥している上に王の墓などに副葬品として葬られたいたためよい状態で出土したものがある。いずれも透明感はなく陶器や石の製品に似ているが、技術的にはかなり高度のものがあり、ガラスの研究者のなかにはこの頃の技術が一番高いという人もいる。
例えばコアガラスには、容器を形づくったガラスの温度が下がらないうちに溶融した別の色のガラスを巻きつけて、これを先のとがった金属の棒で引っ掻いて装飾する方法があった。素地の色は緑、トルコブルー、褐色、黄白色。文様の色は緑、青、黄、白、茶褐色などを用いた。
また、ガラスの発色にはコバルトや銅などの微細な粉末を使うが、熱による膨張率つまり収縮率も違うため、一緒に溶かし合わせてつくることが難しい。その問題を克服してモザイクガラスもつくられていた。モザイクガラスには色の違うガラスの棒を何本か束ねて熱を加えながら延ばし、金太郎飴のような状態にして、これを短く切断したものを鋳型の底に並べて加熱溶融してつくったものと、糊で溶いた色ガラスの粉を筆につけて鋳型の底に絵を描き、鋳造するガラスの表面に溶着させるパート・ド・ヴェール（ガラスの練り粉という意味）の手法があった。
カット装飾も行われていて、石のグラインダーや鑢を使ってガラスの表面を削り、浮き彫りや陰刻、線刻などの加工がされていた。様々なガラスの製法がすでに確立していたようで、イギリスの考古学者J・ガット・Rトムスンが解読した紀元前18~17世紀のものといわれる古代バビロニアの小さな粘土板には表21行、裏22行にわたって色釉薬の製法が記されていたという。
ガラスの技術はその当初からかなり高いものがあったが、面積の大きな板ガラスをつくるには気の遠くなるような時間が必要だった。例えば、1851年に開催された世界初の万国博覧会場に建設されたクリスタル・パレスは誰でも知っているが、そこに用いられた30万枚のガラスは120�弌�25�个糧弔世辰拭Ｅ�時の板ガラス製造の最新技術シリンダーブロウ法では、この大きさが限界だったと考えられる。
鉄パイプを使った吹きガラスの技法は、BC20~30年ごろ地中海東岸のシリアのガラス産地でフェニキア人によって開発された。膨らんだガラスは外気に接する面積が増えるため、800℃に熱せられたガラスが2~3分で固化する。この技法で大量のガラス器が作られるようになった。空中で吹く方法と、型に入れ吹いて表面に凹凸の模様をつける方法があった。こうしてつくられたガラス製品は、拡大するローマ帝国の商業ルートで広範な地域に運ばれ富裕層の間に浸透して行った。
吹きガラスの技法で薄いガラスが作れるようになると、透明性が求められるようになり、貴石に代わるものとして珍重されたガラスは、光を通す素材として新たな価値を持つようになった。ローマングラスと総称される当時のガラスは、典型的なソーダ・ガラスで、透明なガラスの美しさを強調するカット加工、エナメル彩画、線描画などが施されていた。エナメルには透明、不透明の2種類あり、エナメル彩画は粉末状の色ガラスを油性の媒体と混合して、これを筆に付けてガラスに絵を描き、炉に入れて350~550℃で焼き付ける彩画法である。成型法も雄型と雌型をつくって、その間に溶融したガラスを流し込み強く押し付けて成型する押し型成型法も開発されている。
359年、東西に分裂した古代ローマ帝国が479年に滅亡すると、ガラス工芸の職人たちは周辺各地に散らばって住み着き、各地で新しい様式のガラス工芸品をつくった。フランク・グラス、ササン・グラス、イスラム・グラス、ビザンチン・グラスと呼ばれるものがその代表である。
ササン朝ペルシャではガラスは重要な交易品となり、陸路中国やその周辺諸国に輸出された。ラクダの背に揺られて運ばれるため、運搬で壊れにくい厚手の美しい切子ガラスの製品に人気があった。正倉院御物のうち紺瑠璃杯、白瑠璃椀、白瑠璃高杯はササン・グラス、白瑠璃水瓶、紺瑠璃壺の2点はイスラム・グラスである。
10世紀後半、新アッシリア時代になると、割り鋳型でつくられたものを研磨して仕上げる新しい技法が開発された。オースティン・Hレヤードがアッシリアの遺跡で発掘した「サルゴン�鏡い淋筺廚噺討个譴訝故仗Ъ�付きの美しい壺はこの技法で作られ、「サルゴン�鏡ぁ廚筏�された銘とライオンの象が刻まれていた。
中期イスラム・グラスでは、耐熱ガラスが開発され、ガラス器の用途も拡大してモスクや宮殿用の大型吊ランプ、医療器具としての水盤や蒸留器、あるいは錬金術用の理化学用ガラス器なども作られていた。
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（エナメル彩ガラスのモスク・ランプ）
 
（コアガラスの技法）
【正倉院御物】
 
（白瑠璃椀） （紺瑠璃杯）
ササン朝ペルシャ
（サルゴン�鏡い淋�-＝大英博物館収蔵）
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