プレストレストコンクリート製原子炉格納容器・・・・最上達雄

 建設会社に技術研究所が存在すること自体、国際的に、日本の特殊性を象徴しているといえよう。「請負業」を厳密な意味で捉えれば、企業内に研究開発部門を常設し、その経費の負担を顧客に求めることなど許されるはずもない。建設会社に入社してからほとんどの期間を技術研究所に身をおいた私自身、「研究所の存在意義は何か」を常に自問し、外部の人達からも言われ続けて過ごした。
 そのような中で、研究所だからこそのテーマに取組み、成果が実際のプロジェクトに採用されたときの喜びは一入であった。ここに述べるプレストレストコンクリート製原子炉格納容器(PCCV:Prestressed Concrete Containment Vessel)の開発、それも世界で初めて実現した2バットレス方式のPCCVも、そんな仕事の一つであった。
 PCCVについてご存知ない方も多いであろうから、まずその説明をしておきたい。高度成長期の頃、エネルギー需要予測は右肩上がりで、原子力発電への期待が大きかった。わが国の原子力発電施設は軽水炉プラントが主流で、沸騰水型と加圧水型の二つの形式に大別される。加圧水型のプラントでは、原子炉で発生させた熱で加圧水を高温にし、その加圧水から高温蒸気に熱交換され、これをタービンに送り込んで発電する。原子炉と周辺の機器を格納する建物を、原子炉格納容器という。格納容器は原子炉と機器類を大地震時にも安全に支持し、放射能の外部漏洩を防ぐ機能が要求される。
 時代とともに一つの発電プラントは大型化し、鋼製の格納容器は鋼製の構造物から、技術面・コスト面で合理的なPCCVに代ってくる。PCCVはコンクリート製厚肉円筒壁の上部をドーム状のコンクリートで覆った形状をしており(写真)、水平および鉛直方向をPCケーブルで締め付け、万一の事故時の内圧に耐えられるよう設計される。水平方向のPCケーブルの緊張端部は円筒壁に設けたバットレスと呼ばれる突起に収められる。バットレスの数によって、4バットレス方式、3バットレス方式などと呼ばれ、バットレスの数が少ない方がコストは低く抑えられる一方、高度な技術が必要となる。昭和50年当時、世界的にも3バットレス方式が主流で、国内で先行して建設されたものも同様であった。
関西電力大飯原発3、4号機の計画にあたり、世界に先駆けて2バットレス方式に挑戦しようということになった。解決しなければならない技術的テーマは、1)一本のPCケーブルの大容量化、2)大容量ケーブルの定着部の設計と高強度コンクリートの確保、3)緊張順序と緊張管理方法、4)要求される機能をプラント稼動後も保持していることが確認できる検査方法、などであった。
 1000tf級PCシステムに用いる施工機器の開発も含め、実大規模の各種実験を繰り返し、解析的検証を経て、国の安全審査に合格する2バットレス方式PCCV設計・施工システムを完成させることが出来、結果として、実プラントに採用されるという夢を実現した。
 振り返れば、その時代はわが国全体が元気に溢れ、電力会社は意欲的に新しい技術に挑戦し、その意欲を支える建設会社のわれわれも無我夢中で研究開発に取組んだ。技術者として、よい時代に仕事をさせてもらったと感謝している。

関西電力大飯原子力発電所