記憶に残る仕事・「 宇宙建築 」・・・・・清水建設(株)技術研究所 松本信二

 私の専門分野は、建築生産であり、建築工法や施工計画に関する研究・開発をいろいろと手がけてきた。しかし、この十数年は、宇宙開発にも力をいれている。建設会社の中に始めて「宇宙開発室」という専門の部署を作ったのは、1987年4月のことであった。私はその新しい組織の提案者の一人であり、宇宙建築に関する各種の研究を実施してきた。
 多くの建築技術者は、宇宙開発が建築とはまったく異なった技術分野であり、ほとんど接点がないと考えているかもしれない。しかし、宇宙に関する研究を進めれば進めるほど、宇宙開発と建築が技術的に各種の共通点を持っていることを痛感する。
 両者共特定の目的のために多くの要素技術を組み合わせ最適化を図る仕事であり、技術マネージメントという面では非常に類似している。その他に、構造制御、室内環境制御、建設ロボット等、多くの技術が基本的には同じである。もちろん適用条件は異なるが、逆に、異なった条件で検討するために、これまで気のつかなかった新しいアイデアを発想することもある。
 月面基地の建設に関しては特に興味をもっており、アメリカのマクドネル・ダグラス社(その後、ボーイング社と合併)と数年間にわたって共同研究をおこなった。その共同研究によって、月探査に関する我々の技術力も相当向上させることができた。アメリカは現在月探査よりも火星探査に力をいれているが、日本は月探査を本格的に始めようとしている。そろそろ宇宙建築に関する技術が現実の問題として注目を浴びるようになるのではないかと期待している。