- ミレニアムに想う 「建設ロボットよどこへいく」・・・・ 松本信二
20世紀は技術が大きく進展した世紀である。各種の技術分野において、かつては「夢」だといわれた技術が20世紀後半には現実のものとなった。そのような夢の技術の一つにロボットがある。ロボットは、自動車をはじめ多くの工業製品の生産には幅広く用いられており、今や製造業の基本技術となっている。
建築生産においても、いずれロボットが大活躍するのではないかということで、1980年代には各種の建設ロボットが開発され、建設現場で試験的に用いられた。しかし、その後、日本の経済活動が落ち込み、現在活躍している建設ロボットはほとんどなくなってしまった。
どのような先進技術も、順調に世の中に定着するわけではない。一度、花を開くように見えても、まだまだ周辺環境が十分な状態になっていないということが多く、急速に落ち込んでしまうという例が少なくない。
落ち込んでいる技術というのは、市場から見放された技術であり、そのような技術に地道に対応しつづけるということはなかなか難しい。特に、企業の経営者はどうしても短期的な利益を追求しがちであり、落ち込んでいる分野の研究テーマや開発テーマの優先順位はどうしても下がってしまう。また、そのような分野の研究者や開発技術者の企業内における評価も低くなってしまう。
建設ロボットもこのような技術の典型だといえる。建設ロボットの研究開発は現在ではほとんどなされなくなり、一時期向上した関連技術も残念ながらどんどん低下しつつある。
昨年7月に開催された「第8回建設ロボットシンポジウム」で基調講演をされた吉川弘之先生(放送大学学長、日本学術会議会長)は、この問題に言及されて、落ち込んだときにどのように対応するかが非常に重要であると述べておられた。すなわち、花を開きかけた技術が落ち込んでいるときに、いかに真剣にその技術とむきあっていくべきかという提言をされたのである。
しかし、現在のような情況の中で、建設ロボットの技術に真剣に向き合うといううまい方法があるのであろうか。一時盛り上がったこの技術分野を何とか維持していきたいという人は少なくないが、なかなか難しいというのが実情である。私自身もこの分野の応援団として、いろいろと努力しているつもりではあるが、必ずしも満足できる状態ではない。
私の本来の専門分野は建築生産であるが、宇宙建築に関心を持ち、この十数年、宇宙における構造物の建設についてもいろいろと考えてきた。宇宙は、作業環境が非常に悪いので、宇宙における建設活動においてはロボットが非常に重要な役割を受け持つことになる。
宇宙ロボットは、地球上のロボットとそれほど大きく異なるわけではないが、人間とロボットの関係が大きく異なる。すなわち、ロボットの遠隔操作の問題や自律性の問題が特に重要である。私の研究グループも、宇宙構造物を建設するときの基盤技術の一つとして、宇宙で稼動するロボットをいかにして地上で操作するかという問題に取り組んでいる。
このような問題は、地上の建設を考えても、建設ロボットの大きな課題であり、このような問題を今後早急に解決していかなければならない。すなわち、宇宙ロボットの研究を進めるということは、とりもなおさず、建設ロボットの最先端の問題を取り扱っているということになる。
宇宙開発の一環として宇宙ロボットの研究を実施しても、現時点で企業利益に直接繋げることは非常に難しいが、建設ロボットの技術ポテンシャルを何とか維持するという意味では、多少貢献しているのではなかろうか。
最近、ヒューマノイド・ロボットが大きな話題になり、大きな話題を呼んでいる。このロボットは、これまでの工業用ロボットと異なり、人間型のロボットである。機能的にはまだまだ人間にかなわないが、人間の命令を聞いて人間的な動作を行なうことができる。また、愛玩動物のようなかわいらしいおもちゃのロボットの人気も非常に高い。
そのようなことから、一時下火であったロボット技術にも、新しい展開が期待されるようになった。この従来とは異なった新しいロボットブームがきっかけになって、建設ロボットがふたたび注目されるようにならないかな、と思っている。