記憶に残る仕事・横浜芙蓉ビルの基礎設計・・・・・加瀬善弥

 昭和50年の初め横浜駅近くの一角に倉庫が数棟建っていた。周囲には大きなデパートがあるくらいでそれ程大きな建物は見あたらなかった。現地調査でこの場所に立ち、これから商業施設の設計がはじまると思うとファイトが湧いてきたのを今でも忘れられない。
 この付近は地盤沈下を生じている軟弱地盤で有名であった。地盤調査をしてみると、やはりN値0の地層が地表面より35mと続き支持層は深さ38mにもなった。
 上部構造は柱を鉄骨鉄筋コンクリート造、梁を鉄骨造、床はデッキプレート型枠の鉄筋コンクリート造、杭はリバース工法による場所打ちコンクリート杭、外壁はPCカーテンウォールとし、工期短縮、軽量化を図った。(地下1階、地上12階、高さ44.75m、延べ床面積40,907m2)。当時超高層の一部で杭、地盤、建物の連成応答がなされていたが、本規模程度の建物の多くは当時の設計法、震度法で行われていた。あまりに地盤が軟弱なため、杭、地盤、建物の連成応答をPenzienモデルで実施した。その結果今では当然と考えられている、杭中間部にも大きな応力が生じ、杭の配筋方法を見直すことになった。
 この工法の採用により 厳しい工期(1976-7〜1978-10)にも間に合わすことができた。一方この時から基礎構造に目を向け、基礎関係の技術開発にも携わり、技術面での自己形成に大きく影響を与えたジョブである。
後日談
 何年かしてあるテナントがライブ演奏をし、聴衆者がリズムにあわせて踊りだしたところ、床が揺れ陳列していた品物が棚より落下したとか。物販業界の変化に驚いたり、建物の使われ方にもっと配慮すべきかと思ったりした事件であった。
*リバース工法:リバースサーキュレイションの略回転ビットにより地盤を切削し、土砂は孔内水と共にサクションポンプまたはエアリフト方式により排土する。