観・想・考08

会誌 「PSATS」 の編集に際して・・・伊藤誠三
入社して仕事を始めた頃、隣席の先輩が「新建築」を購読していて、届くたび広告部分を外して捨てていた。分厚い雑誌の半分近くを占める広告は邪魔だったからであろう。小生はそれを貰う事にした。彼はそんな紙屑をどうしてため込むのかというような顔をしていたが、僕は僕で他人の仕事の記録写真など、どうして大事にするのかと心の中で思っていた。兎も角、手許の部位毎に分類された材料ファイルは毎月、増補されていった。最近は「日経パソコン」もとっている。これも半分は広告で直接には必要のない物ばかりだが、技術の最新事情を知る手がかりとなっている。
 旅行案内が来る。市販のガイドブックにはないような地方のきれいな写真や洒落た紀行文に旅情がそそられ、捨てられない。年金受給者向けの小誌が届いて、健康への注意や老い方のアドバイスが有る。心当たりの或る事も有り、これとて簡単に捨てて良いものか。アドレスが売買される昨今だから、見知らぬ印刷物も小生宛てに届いて、購読新聞2紙に挟まれてくる広告と共に、見る間に山積し、日夜、所謂「情報の洪水」に見舞われている。
でも、考え方を変えれば、僕の社会的存在があちこちに認知されている訳だから抹消されるのはまだ早い、という訳で、努めて対応する。すると図書券の他、コンサート、展覧会、豪華なところでは温泉の招待券が届いたりする。 反応が良いと見るとますます洪水の量が増えるようだ。「ゴミの仕分屋」のように感ずる時が有る。
「情報」とは何か。伝達できなければ只の騒音・文字列。でも、伝わるかどうかは受容器側のアンテナの方向と感度次第だ。関心がなければスイッチも入らない。同じ新聞を読んでいるのに家内と話題がずれ、読み直すような事もしばしば起こる。
我が「サーツ会誌」はどうか。また、どうしたら面白くなるか。会員の年令・構成から考えると、同輩の長年の「うんちく」や「ちょっと実のある話」が聞きたい。聞けなくなった現代技術の潮流への認識を仕入れたい。伝承はいいが自分が古びてしまわないためにはどうするか。というようなことがテーマになるのか知らん。
この度、今津さんより「PSATS」会誌の編集を引継ぐ事になりました。未経験の事でその任に有らずと思いますが、引受ける事になった以上会員皆様のご鞭撻、ご協力をお願いして役目を果たしたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。取敢えず、「投稿お願い」を同封しますので必ずファックスにて、サーツ事務所宛て、ご返送頂きますようお願い致します。    敬具


「建設業 再生へのシナリオ」を出版して・・・ 米田雅子
昨年の12月に彰国社から「建設業 再生へのシナリオ」を出版しました。
建設業の歴史を研究している菊岡倶也先生は、この本を読んで「あなたも建設業という魔物に取り憑かれたのですね。私もその一人ですが...」といわれました。「取り憑かれた」という言葉で、私は、はじめて、自分が何者であるのか、また何をしたがっているのかが、はっきりとわかりました。
私は34才の時に、以前勤めていた新日鐵の依頼で、建設業の技術動向の調査を始めたのですが、次第に、建設業という暗黒大陸そのものを解明したいという気持ちが高まってきました。そして、5年前に、松村先生の「来るものはこばまず」の寛大な度量のおかげで、坂本松村研究室に入りました。そこで私は、建設業をあいてに、無謀にも数学の解析を始めてしまったのです。東大は資料の宝庫で、建築の図書室だけでなく、総合図書館や経済学部の図書館にも通いました。
「地球の中にいる人には見えない地球の形や姿が、地球の外にいる人には見える」という言葉を信じて、建設業の外から来た人間として、建設業の姿を捉えてみたいと思いました。私の研究対象は「建設業」です。菊岡先生に「あなたはこの本で、建設業の研究者として、世にでました。」といわれた時に、この5年間の孤独な研究が無駄ではなかったこと、またささやかなりとも成果らしいものを出して、同じ道を志す方から研究者として認められたことを知り、嬉しく思いました。しかしまだまだ、私が解明できたことは、建設業のごく一部にすぎません。ライフワークとして、これからも建設業を相手に数学の解析をつづける気持ちでいます。
実は、この本の原形となる連載は、2年半前に、いったん書き上げたのですが、その時に、あるむなしさを覚えました。どうしようもない苦境に陥っている建設業を、ただ、外から傍観しているだけで良いのだろうかと真剣に悩みました。そこで、思いついたのが、「NPO法人をつくろう」ということで、サーツの言い出しっぺになりました。建設業をより良い構造に変えていくために、できる所から行動しようと決心しました。
サーツは、実践の場であるだけでなく、研究者としての自分にとっても、宝の山です。経験と実務を積まれたモラル高き会員の皆様全員が、私の先生です。その証拠に、2年半まえに書き上げた積りの原稿を、本にするときに、ほとんど書き直さなければなりませんでした。事務局の雑務をこなしながら会員の方々から学んだことがいかに多かったを知りました。
私は、建設業に取り憑かれたものとして、外の視点から建設業を研究して提言をしながら、サーツで具体的に行動できる人間になりたいと願っています。今後とも、どうぞよろしくお願いします。