観・想・考 06

伝承すべきはココロ・・・ 岩瀬文夫

 コンクリート構造物は果たして何年の寿命を持つのでしょう。これは一般の方からよく尋ねられる質問です。が、実は私自身、解明したい疑問のひとつでした。
 ところで、この問に対する私の答えは年々変わって来ました。私が業界に足を踏み入れた当時、諸先輩方から聞いた答えは『半永久』。その後、私独自の見方でコンクリートを見る様になってからは『100年程度』。更に紆余曲折の後、コンクリートの問題点がはっきりと見えてきた今は『500年以上』です。
 この『500年以上』という答え、新人当時に諸先輩方から聞いた『半永久』に一致します。答えが30年以上も前に逆戻りした訳です。答えの歴史は私の技術の歴史でもありますから『成長していたつもりがその実、成長していなかった』ことになります。情けないことです。
 しかし、30年前と一致する答えであってもその中身は違います。『コンクリート構造物は人為的に撤去するとき以外、決して壊れないように造らねばならない』という最も大切なココロが、今の私にははっきりと認識できているからです。そして今、確信しています。私たちが本当に伝承すべきことは、小手先の技術ではなく、正しい技術を生み出すための『ココロ』に違いないことを。


地球の寿命はあと何年?・・・三田諭吉

 本気とも冗談ともつかずに息子たちに言う。「地球の寿命は、お父さんよりは長いが君達よりは短いぞ。」と。
 オゾン層の破壊、地球温暖化の進行、森林破壊、人口増加等がこのまま続けば間違い無くこの心配は杞憂ではなくなる。
地球にオゾン層ができ、陸上に植物の生存が可能になってから4億年、この間、宇宙空間のひとつの星「地球」は自然循環のバランスの中で進化し続けることができた。
 しかし現在、地球が20億年もかけて作った薄いオゾン層(1気圧下では僅か3mm)を我々の世代が破壊しているという不名誉な現実を直視しなければならない。オゾン層の破壊はDNAの破壊、そして生命の再生産の破壊につながってゆく。
 そして、二酸化炭素の発生による地球温暖化。国連の世界委員会によると、海面上昇が100年後には65センチから1.5メートル。そうなると日本の砂浜の殆どは海中に、そして食料自給率30パーセントンの日本の農作物も大きなダメージ。
 更に、とどまらない森林破壊、人口増加、こんな流れの中で我々はどんな行動をとればいいのだろうか。
 「百匹目の猿現象」というのがある。宮崎県幸島の猿軍団で一匹の雌猿から始まったイモを水で洗う行動が群れの中で普及すると遠く離れた高崎山の猿軍団でも同じ行動が始まった。ある行動をとるものの数が、一定の比率を超えるとその行動は空間を超えて別の集団にも伝播するというもので「シェルドレイクの仮説」としても理論的に説明されている。
 我々が今とるべき行動は、一人ひとりが日常生活のなかで、そして仕事を通じて、地球環境の回復のために出来る事をひとつづつ実行する事である。私は車はしっかり整備をして必ず10年以上乗り続けている。電化製品は最後まで自分で直して使っている。最後の最後まで、ものは捨てない。捨てる時も使えそうな部品は取り外して保管している。住宅も、リフォーム、リユース、リデュースが一日も早く定着して100年住宅の実現する日をこの眼で確かめたい。やがて60歳、間に合わないかな。


ハンマービームを求めて・・・山田利行

 数年前に日本女子大学成瀬記念講堂(明治37年 田辺淳吉)の木造小屋組を見てからハンマービーム構法の構造美に魅せられ、最近建物実績等を調べ始めました。
 突然、教会に伺い牧師さんとハンマービームの話をし写真を撮らせてもらい、教会100年史などの資料を頂くと心がいやされます。
 ハンマービームとは1350年ころイギリスの教会で用いれられた木造の小屋組で当初はスパンを広げるために用いられた構法で、時代とともに装飾的に用いれられてきた。近年に移民とともにアメリカの教会で多く用いられ、明治時代に入り外国人宣教師、建築師、フレッチャーの本等で日本に紹介された。
 明治時代の主な建物は、同志社礼拝堂・宣教師グリーン・明治19年、千葉教会・ドイツ人リヒャルト・ゼール・明治28年、関西学院・ブランチ・メモリアル・チャペル(現神戸市立王子市民ギャラリー)・英国人ウィグノール・明治37年、があり、大正に入るとヴォーリズの作品に多く使われています。教会ばかりでなく住宅の妻飾りに採用されており、身近なところに明治時代のハンマービームを使用した建物、コンドルの作品、ゼールの設計の三田美以教会などのハンマービーム等に関する情報があれば教えて頂きたい。
 仕事のストレス解消に、時には木質構造の原点にかえり明治のロマンに浸っては如何ですか。