「信頼と信用との違いについて思う」・・・・丸山和郎


 数年前、旧友の不動産コンサルタントに、「信頼と信用との違いがわかるか?」と質問された。

 さらに、「『信用第一』・『安全第一』を旗印に掲げている企業への信頼度をどのように測ったらよいか?」と矢継ぎ早に訊かれた。

 ニュアンスから、信頼のほうが信用より高いレベルの要素を含んでいるようだが禅問答のようでよくわからない。

 友人いわく、「信用は、商行為における契約内容の具現であり、当事者双方の債権・債務の履行、という当たり前の行為によって生じる結果である。従って、『信用第一』・『安全第一』をモットーにしているような低理念の企業は、その技術力たるや信頼に足るものではない。信用の根拠は文字通り契約書に明記できる半面、その内容だけに限定される。信頼は個人・法人を問わず、当事者の人間性によって培われる高次元の人格的要素である」と。

 折りしも「船場吉兆」の料理のつかい回し事件などは典型的な例であろう。料亭での飲食は、客と店との間に「お品書き」という見積内訳書を介しての委任契約である。  契約内容と異なる実態が明らかになった時点で、おかみは、「手つけずのものは味も落ちないし、勿体ないから出した」つまり、安全だから出したと言うが、契約内容の変更の了承なしにとったこの行為は、明らかに契約違反で詐欺に近く、どのような言い訳をしても信用できない。

 われわれのコンサル業務にあっても、契約は民法にある「委任」が基本で、当事者間の信頼関係を前提としている。平たく言えば、クライアントは「お金は出すから、私の代わりにこれこれの仕事をしてくださいね」ということで、委託代金の支払も実費精算方式による着手時前渡し金などがあり、信頼できる相手でなければこんなことはできるわけがない。

 コンサル業務の中にも、クライアントが期待する成果品提出を求められるものは「注文書」「請書」を取り交わす「請負契約」で、改善提案を含む計画図や提案書作成業務などがこれに当たる。

 詳細原因調査など「委任」に該当する内容で、コンサル側が良かれと思って先行させた仕事でも、事前承諾がないと、クライアント側からは「あー、こんなことも請負サービスの範囲なのか」といった誤った期待を生み、結果的には「こんな筈ではなかった」とお互いの信頼関係が崩れる場合がある。   

 一方的な思い入れやサービスは、船場吉兆の例のように、信頼はおろか信用まで失墜させることになる。 契約内容の具現化という「当たり前のこと」の積み重ねと共に、委任に足る豊かな人間性を培う努力を今後も続けていこうとあらためて思う。

「愉しみ酒 閑話」・・・・伊藤誠三


 サーツ会員のお酒の会で呑み干した全国の純米酒は330種を越えた.当初は酒米や,酵母,醸造法の差など,知識による呑み分けに忙しかったが,最近は淡々と「味わい」そのものに徹して,評価も厳しくなってきたし,呑み方も枯れてきたように思う.幼少時,お正月の屠蘇に始まる酒歴も終盤になって,更に楽しくなってきた.多くの失敗,苦い思いを乗り越えた賜物だ.最近,「やめました」と言う友人が増えてきて淋しい.どうしてそんな結論になったのか判らないが,頂上を目前に下山を決意した勇気ある撤退のようなものかもしれない.
 ウイスキーにも手を出している.昨年はスコットランドの蒸留所を3箇所訪ねた.日本酒のそれと比較して面白かった.日本酒では酒米の精白度とか,酉元の育成に杜氏の経験で味わいが工夫されるが,スコッチのシングルモルトの味は発酵槽の型や構造で云々されたりするものの,それぞれの特徴ある風味は麦芽調整時の薫蒸に焚き込められる泥炭(ピート)の違いによっている.泥炭といえば聞こえは悪いが,一万年を掛けたヒース類の堆積による炭化層である.いわば,太古の香なのである.タール臭と言う表現もあり,やや癖のある香なので,一般にはブレンドして薄められているものが多いが,このピート臭の強いもの(peaty)が楽しい.少し水を加えると香りも立って良いが,地域によって異なるこの微妙な香(臭?)が楽しい.焼酎もこのように呑めばよいのだが,倍ほども薄めてしまうのが通例だ. 何故だろう.