観・想・考

最近の建築技術者の能力向上意識について・・・・・ 柳川 裕

 昨年春以来、ゼネコンおよび設計事務所の上・中位クラスの企業教育担当者38社とその職種別、年代別技術者約360人より、技術者の自己啓発、能力向上意識について調査する機会を得た。協会の今後の活動にも参考になると思い、主な調査キーワードの一部をここに紹介する。

 先ず、「自学自習で能力を高めること」を企業は重要と考えているが、技術者の約1/4が重要とは考えていない。また、企業は「社内研修」を重要視しており、技術者もそれに近い考えはあるが重要性を若干低く見ている。

 さらに技術者は、「社外での専門教育・研修」を重要視している傾向があるが、企業側の意見は分かれている。しかし「自分の能力やキャリアを見直し、不足分の能力形成に役立てること」は企業・技術者共に重要と認識しており、「自分への投資」を技術者やゼネコン企業の8割以上が重要と考え、機会あれば自ら進んで参加する意識が読み取れる。なお設計事務所企業がやや低いが、「仕事を通してのスキルアップを重要と考える」傾向があるためかと考えられる。

 次に、会社側の「定型型訓練のメニューを提示し、自分で選択できる」ことに企業、技術者共否定的であるが、 20代社員の7割弱が選択を望んでいる。職種では、設計、研究開発担当はこの訓練を有効とは捉えていない傾向が窺え、「仕事を通して能力を上げる」、「社外での教育・研修」を望んでいる。構造設計や施工管理担当は、「定型型教育」を有効と考える者の方が多い。

 最後に「自己のビジョン形成のための行動プランを作ること」については、企業側は必要性を感じない傾向があるが、ゼネコン施工管理担当にその必要性を強く感じる傾向が強い。このことは、自分を見つめ直したり自己啓発のための「勤務時間短縮」希望などにも現れ、企業は自己啓発のための勤務時間の変更は良しとしないが、技術者はこれを望んでいる。20代および構造設計、施工管理担当にこの意識が高い傾向がある。裏返せばこの年代や職種が非常に多忙であることが窺える。

 この調査から、企業の教育・訓練方針と技術者の意識には、職種・職能や年代の違いによるギャップが種々明確になった。現在、技術者のあり方に関して種々議論されているが、今後、社会的にもこの点を踏まえた意識・向上努力が、より多くの企業や建築技術者に求められているのではないかと感じた。


女性建築士の趣味活動を通して・・・・片岡泰子

 (社)東京建築士会の中に、私も所属している女性委員会という組織がある。今どき、「女性だけによる活動」の意味を問う声が内外からあり、同じ理由で当初は抵抗を感じる委員もいるが、すぐに子育てと仕事の両方を話し合える仲間のいる環境に魅力を感じてくるようである。この中にバリアフリー部会がある。住戸内や交通機関のバリアフリー対策の提案もしているが、自分らしい生き方を続けるための住まい方、「終いのすみか」を探ろうということを行っている。
 まずは、先輩達の元気な住まい方を拝見したいと、「はつらつと住まう」というテーマで、昨年、75歳〜85歳の「はつらつ」な6名に訪問インタビューを行った。
 中伊豆の地で友人と「友だち村」を実現させ、自らも入居して生活を続けるAさん(女性)は、旧同潤会大塚女史アパートで多感な青春時代を過ごし、自立した女性達の互いに支え合う生き方に影響を受け、以後、拠点を移しながらも常に仲間が集い合う場を提供してきた。「友だち村」とは「個を基本とする関係の中で、自立と相互扶助、独立と共同の新しい形の住まい方」を実践しているコレクティブ型集合住宅である。老若男女の仲間が移り住み、「文化と芸術の発信基地」を目指しており、文学者でもあるAさんは、少々不自由になった身体で、ライフアーチストとして生き方・その夢を仕掛け続けいる。次に、大正末に竣工し、H13年に指定を受けた登録有形文化財の木造2階建医院併用住宅で、大好きな自邸を大切に維持しながら暮らし続けている女医。80歳を過ぎても現役の眼科医として午前中を過ごす。また、下町の住宅併用レッスン場で子供達にバレエを教えている、かっての活躍が偲ばれるバレリーナは、生活の変化に合わせて、リフォームを繰り返して楽しんでいる。さらに、参加型コレクティブハウスで暮らす夫婦は、つかず離れずの自立した周囲の関係に安心感を持っている。都心の超高層住宅で一人暮らし、パソコンメールを駆使して、長年の友人達と連絡しあい、利便性を享受している85歳等。
 限られた訪問例ではあるが、良い意味で「わがまま」で創意工夫の強い人、好奇心の強い人、また、前向きさが「はつらつ」とした生き方となり、また、それが住まい方に反映されていると感じた。「終いのすみか」のあり方は様々であるが、一人暮らしであっても、家族の他に、常に集まってくる仲間たちがいることの豊かさを感じた。