観・想・考

無呼吸症候群 ・・・・・岡田克也

 毎年、年賀状を交換していた友人などの突然の訃報に接するにつけ、わが身の健康状態が気になりだした。特に、現役時代からホテルで同室の人に迷惑をかけたり、場合によっては、かけられたりもしたいびきが、最近ひどくなっているのでないかと心配になった。夜11時過ぎから早々と2階の寝室でにていると、妻よりあなたのいびきが1階まで聞こえ、その上、時々息が止まっているようだといわれた。これは最近話題の睡眠時無呼吸症候郡かもしれないと思い、インターネットや図書館から借りた本などより情報収集したところ、無呼吸症が原因で、低酸素血症、高二酸化炭素血症や高脳血症によると突然死になることがあるなど、たかがいびきなどと見逃せない深刻な症状ようである。私も突然の訃報を送らないようにと、早速、専門医の診察を受けようと専門のクリニックに行ったところ、先ず、いびき症状のデータ測定のクリニックを紹介され、そのデータに基づき診察してくれるとのことであった。新橋の測定専門クリニックはホテルのように個室がたくさんあり、測定の当日はアルコール禁止で、私の夕食にかかせない晩酌のかわりに、食後コーヒーを飲んで測定室のベッドで待っていた。夜10時に看護士さんが頭、胸、指先、足に15の電極、2つのセンサー、2つのセンサーベルトをつけてくれ、いよいよ測定のために寝ていびきをかかねばならない状況になった。ところが、頭のセンサー、胸の周りを締め付けるように取り付けたセンサーベルトが気になり、2時間経っても3時間経っても目が冴えていて、とてもいびきを測定できる状況にならなかった。しかたがないので看護士さんにきてもらい、センサーベルトを緩め、睡眠剤をもらってやっと寝ることが出来た。晩酌なしで替わりにコーヒーでは、何時もの状態のデータでないと思うが、健康保険が適用されるため禁酒が測定条件のようであり、苦行の1泊測定であった。測定結果はたまに無呼吸の症状が見られ血中酸素濃度も正常の90%まで低下(重症者では70%以下にもなるとのことである)軽度の無呼吸症と診断された。現在、医師と相談して、いびきを掻きにくい横向き姿勢で寝る習慣をつけること、そのための枕やいびき防止グッズなどを試し、毎日ICレコーダーで録音してパソコンに取り込み、データ収集分析中である。

早池峰薄雪革(はやちねうすゆきそう)・・・・・村岡 暹

 東北岩手県に早池峰(はやちね)という名峰がある、美しい響きの山名である。南側は遠野物語の舞台であり、今でも深い陰影をたたえた山里である。早池峰もまた、高山の花に溢れ、山と花の好きな登山者を誘っている。
 九州からのツアーに参加し、この峰に登ったのは5年前、夏も近い6月の下旬であった、前日に河原坊麓の民家に泊まり、床の間に飾られた恐ろしげな神楽面に見据えられて眠った、この面には、ねぶた、ナマハゲ に見られる東北の荒ぶる神々との共通の面影があった。
 河原坊からの登りは、晴れ間が覗いたかと思うとすぐ雨が降り出す不安定な天気であったが次々に現れるさまざまな高山の花に歓声を挙げながらの楽しい登山であった。
 そして遂に待望の はやちねうすゆきそう がつややかな蛇紋岩の間に姿を現した、深緑色の磨いたような肌に白くうねる様な斑が入った蛇紋岩と、エーデルワイスに最も近いとされる はやちねうすゆきそう は、その対比がとてもすがすがしく、登りのつらさを、忘れさせてくれた。
 後で知ったことであるが蛇紋石は石綿の原料となる鉱物である。
 早池峰の山頂は雲が流れ黒々と大岩が重なり、荒ぶる神々の輿の様である。下山の際に注意があった。蛇紋岩の上には絶対に足を乗せてはいけない、この山は怪我が多くそれは蛇紋岩で滑るためだ、とのことである。
 なるほど小さな拳ほどの岩に足をかけると見事に滑る。この鉱物を砕いた砂は左官材料の伸展材として使われ作業性の向上に役立っていたが、今では、禁止され使うことも出来ない。
 ともあれ、磨いた様な美しい蛇紋岩に注意しながらの降りは、たいへんに神経をすり減らす、長く感じられる下山だった。
 白い綿を被った様なうすゆきそうの可憐な姿とともに、東北の鮮明な印象として記憶に残っている。