身体も心も精いっぱい使って“生きる”ネパールの子どもたち・・・・・田中和子
　カトマンドゥ空港から車で十分ほど、なだらかな丘の上に立つ小さなホテルに到着。日本風の庭園で、日本人の女性から、日本の緑茶のもてなし。すっかり緊張がほぐれる。
昼食をすませ、早速カトマンドゥ探訪にでかける。先ず、カトマンドゥ盆地の西のはずれに建つスワヤンブナー寺院を訪れる。ここは文殊菩薩伝説によるとネパール最古の仏教寺院という。仏陀の目が描かれているストゥパ（仏塔）が下界を見据えている。見栄えのするこの二つの目は仏陀の知恵と悲哀を表しているという。別名・目玉寺院と呼ばれている。境内にはチベット仏教、インド仏教、ヒンズ教の寺院が混然としている。ネパールの宗教の複雑さと、歴史の悠久さがうかがえる。境内には寺院あり、仏塔あり、巡礼宿あり、ざっと数えただけても、その数三十棟を越える。高い屋根を持つパンチャム・ムクヒ・ハヌマン寺院は日本の五重の塔の原型という。旧王宮に続く四つの建物は、この地でも名建築といわれている。
　排気ガスと塵墳にあふれるカトマンドゥの街中を抜けて、緑の中を約十五分ほど東に走ると、古都バクタプールに入る。この地は十五世紀から十八世紀にかけて栄えたマツラ王朝の首都のひとつ。ここは王宮のあるダルパール広場。王宮には細密な木彫りの窓が、五十五も悠然と並んでいる。タウマィ広場でひときは目立つのがニャタポラ寺院の五重の塔。−高さ三十メートル。王朝以前からの古い町並みを残すタチュパル広場。それらの広場をバザールが結んでいる。
　カトマンドゥでもバクダプールでも寺院の建物群を迷路のような路地がつなぎ、路の両側にはみやげ物屋が軒を並べている。どこの店にも、木彫りの仏像、ヒンズー教のお面、チベット仏教の絵画（タンカ）や法具のマン車が置かれている。どれも珍しく、美しい。これらの品は店に置かれているだけでなく、子ども達が抱えて売り歩いている。私も掴った。買ってやりたいが、これからの旅の行程を考えると手が出ない。子どもたちは価をさげたり、おまけをつけたりと食い下がる。なんだか弱いものいじめをしているような心境になる。やっと解放されたのは二十分後。日本語で“貧乏！”の一言を残して。
　誰が教えたのかこの言葉。が、腹も立たないし、不愉快とも思わない。身体も頭脳も精一杯つかって、生きている子ども達に、生きることの真剣さを教えられた思いがした。

閑散役を払拭するには・・・・・奈良幹雄

　現在（社）日本監査役協会の会員会社数4300社、登録監査役数6300名である。わが国には他にも多数の監査役が選任されている。
監査役の職務を一口で言えば、取締役の職務執行の監査を行うことである。これを少し説明すると、法制の定めた総合経営監査すなわち会社経営全般についての最高度の経営助成の求めに応えた、監査役を中心として戦略的に実施される、会社経営全般の、最も効果的な指導・補佐を担当する監査、この監査の遂行こそ監査役職務の真髄といわれている。
　そこで、自らの監査役の経験を踏まえ監査役業務の適正な執行のための基本姿勢について私見を披露したい。
�〇�実認識の正しさと判断の的確さ
　取締役会への出席、会計書類等の閲覧から会社の現状を把握する、的確な判断は経験だけでは足りない。ここで大切なことは、バブル崩壊の過程で露出した企業と監査との癒着と馴れ合いであり、監査役は経営陣と「一歩距離を置く」ことが要求される。
��強いられる「チェック対象者」との緊張関係
　企業の現況を正確に把握し「企業風土」に慣れることは必要、しかし企業に狎れたり「仲良しクラブ」になってはいけない。一口に企業といっても、その業種、風土は多種・多様である。取締役会とは日常的に緊張関係を保持し、鋭い批判的精神で「ノー」と言える監査役でなければならない。「イエスマン」はダメで「論議メーカー」が望まれる。
��「独立した機関」としての性格の認識
　取締役会とはその職責を異にする独立した機関であり、取締役からは自由な立場で思索すべき立場にあることを認識し、勇気を持って言うべきことは言うことが要求される。「物言わぬ監査役」は役立たない駄目監査役といえるだろう。監査役の意見は常に「全体株主の立場」を忘れてはならない。
以上�　銑�の姿勢を維持することは、漱石の『草枕』、「智に働けば角が立つ、情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。」の心境である。
　監査役が通説に従い適法性監査のみの実践では時間的な余裕があり過ぎそのまま「閑散役」の地位に安住することになってしまう。
　今、企業はもとより国民の期待に応えるため監査役は積極的にやり甲斐のある新監査分野を模索し、自ら研鑚努力してその職責を果たすことが求められている。