- 贅沢すぎる雑踏を抜け出し、シェルブール行きの列車に乗っていた。SNCFと呼ばれる国鉄の列車はル・アーブル駅で下車、バスに乗り換え中世の港町オンフルール、ドゥービルの二つの町をめざす。パリ市サン・ラザール駅からル・アーブル駅まで約2時間。車窓から眺めるセーヌ川は初秋を川面に写し、表現し難いほどの感動に、フッとため息が漏れてしまう。セーヌ川が見えなくなれば広大な牧草地が広がり、どこかの美術館で鑑賞したことがありそうな情景が繰返されていく。「ときめき」に酔う自身を手放しで認めた・・。私にとって訪欧は生まれて初めての経験であり、その準備には必要以上に心力をついやしていた。それゆえ、私の心はまさに童心のそれ情態が続き、音の無い場面が感動的に車窓を流れた。
ル・アーブル駅からバスで30分も走ると、オンフルールの集落に入る。視界の戸数は100戸前後かー。新築中の家も数戸見られる。しかし、圧倒的に旧家が多くその大半がティンバーフレームと石造りであった。バスを降りて1軒、1軒写真を撮って周りたい衝動に駆られる。終点に着いたらとって返してこの集落を見に来ようと心に決めていた。が、、、
遠いー。終点に着くまで1ツの山、半島を越さねばならない。目的地オンフルールの港町にタクシーが1台も無いことに気付くのに時間はかからなかった。
バスターミナルは岸壁のすぐに隣接、待合ホールに人影は無い。初秋の海風が想像以上に冷たい。ドキドキしながらあたりを見渡すが町らしきものは一向に見えない。乗客の後に理由なく続いた。百年はゆうに経っていると思える公衆便所のわきを何故か乗客たちはすり抜けていく。駐車場を横切り、10件ほどのレストランの前を過ぎ、左へ曲がった途端ノ。「絵のような風景」が目に飛び込んできた。「古〜い」と大声で叫びたくなった。「家が生きてる〜」と泣きたくなった。言葉にもできない夢の現実がここにあった。つかみどころのないファンタスティクが売りの作曲家エリック・サティが、ほんの少しだけ解かったような気がしてくる。15世紀における対イギリスとの百年戦争時代、ここは重要な港湾の町として貴重な存在であったという。そして、町並みがその当時と基本的に変わってないという説明には感服する。町並み保存活動を見ている日本での自身を振り返ると何故か空しい気持ちがよぎってしまう。日本の現状を否定しているのではない。あまりにもちがう民族性歴史観、それを維持・伝承するパワーを体感してのことかも知れない。なぜここまで感動してしまうのかも解からぬまま、シーフード料理で有名な高級リゾート地ドゥービルの町へ向かった。
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