「インターネットで構造安全性を評価」・・・・東京大学大学院新領域創成科学研究科 環境学専攻 教授 神田 順

 昨今、性能設計が言われている。しかし、こと構造に関して、たとえば耐震性や耐風性について、「どのくらいの性能をもとめるか」という意識が、残念ながら多くの人にない。あるいは、今住んでいる家の地震や台風に関する危険性がどのくらいか、知るすべもない。安全の問題は真剣に一人一人が考えるのは難しく、つい、国や法律に任せがちである。しかし、ひとたび地震が来たり、台風に襲われると、「なぜ?」ということになる。確かに建築においての自己責任はそう簡単でない。
 我々の研究室では、3年ほど前から建設会社の方々と共同で、構造安全研究会を作り、安全性について議論を積み重ねている。構造安全性が社会から認識されるには、身近に情報が知らされることが第1であるとの結論を得て、地震や風の危険度の標準的な評価法の検討を進めて来ている。
 昨年、国土交通省から建設技術研究開発費補助金を得ることが出来、評価法を構造性能という形に広げて、インターネットで誰もが、構造安全性を評価できるシステムを開発した。単に自分の家の50年間で地震によって大破する確率の数字を知るだけで安全性への認識が深まるというものではないが、まずは考える出発点にしてもらえることを期待したい。それと、プロのエンジニアが、道具として使い込んでもらえるとありがたい。
 構造設計や耐震改修において、どのくらいの安全性を要求条件にするか、正面から取り組むときの資料になればと思う。と同時に、研究室としては、評価システムそのものが改良の余地をもっているので、当面、標準的評価法になるためにはどうすべきか、多面的に検討して行きたいと考えている。
 システムは3つの評価法からなっている。地震危険度評価と強風危険度評価、それに環境負荷評価である。
 地震危険度評価は敷地の地震動評価、建物の耐震性評価を行った後、建物の地震危険度評価が、評価期間における被害の発生確率の形で示される。敷地の地震動評価は、いわゆるハザードカーブを計算するもので、敷地の緯度、経度情報から、活断層や過去の地震のデータベースをもとに任意の評価期間にたいして、地盤増幅のデータベースを用いて、地表面の地震動強さが確率的に求められ、図示される。
 計算結果はたとえば、図に示すような画面が次々現れ、対話的に評価が進められる。図の例では、左側が文京区本郷のハザードカーブ、右側が1960年に建設されたRC造の住宅の場合の被害率曲線。両者を掛け合わせて積分することで、たとえば、今後の50年間で、全半壊の確率8%、全壊の確率3%という具合に表示される。
 強風危険度評価も地震の場合と同様で、敷地の風速評価、建物の被害率曲線の推定に基づき、評価期間の被害発生確率が求められる。風速評価に関しては、建築学会の荷重指針を参考に求められており、また被害率曲線としては、過去の被害データを基に、新しく推定関数を求めた。
 環境負荷評価は、地震危険度評価を前提として、建物の初期建設時および建て替え時に、地震被害期待値を加えたライフサイクルCO2排出量が算定される。CO2排出量を構造性能の一つと見る考えが定着するには、まだまだ時間がかかるといえるが、具体的数値になじむことで、省資源、省エネルギーを単なる掛け声だけでなく、意思決定場面での資料とすることが期待される。
 出来たばかりのシステムではあるが、より多くの人に活用していただきたいと考えている。是非
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