次世代へ 「コンクリートの耐久性問題に対する一考察」・・・・加賀秀治
 太平洋戦争によって暫く停滞状態にあった建設工事も、日本経済の高度成長に伴って昭和35年頃から急激に増大した。これによりコンクリート技術も目覚しい進歩を遂げたが、その成長があまりにも急激であったため、昭和55年頃からその歪みが現れ始めた。これまで半永久的と考えられてきた鉄筋コンクリート構造物が20〜30年で劣化し始め、テレビや雑誌に報道されて大きな社会問題になった。昭和59年にNHKで放映された「コンクリートクライシス」は、コンクリート技術者への大きな警鐘となった。
 劣化の原因としてはいろいろな事項が考えられるが、主なものとして下記の事項が挙げられる。
●骨材の品質低下:河川砂利の採取規制により、低品質の骨材を使用せざるを得なくなり、海砂の塩分による鉄筋の発錆、山砂の泥分によるひび割れの発生、粒形不良による単位水量の増大、アルカリ骨材反応による異常膨張などが生じた。
●技術者の技術力低下:生コンが普及し、工事現場でコンクリートを製造しなくなったため、現場技術者のコンクリートに対する知識が低下した。一方、生コン工場では専門技術者が不足し、これに過当競争によるコストダウンが重なって、不良生コンが作られるようになった。
●工期短縮による無理な施工:施主の要望により工期短縮が最大の命題になり、質より量が優先された。工事現場ではコンクリートを軟練りにしてポンプ圧送量を増やし、十分な締固めや養生を怠った結果、構造体コンクリートにジャンカ、コルドジョイント、強度不足などの施工欠陥が生じた。また、労務者の不足がこれに拍車をかけた。
●設計図書の不備:設計に必要な環境条件、使用条件、施工条件などの検討時間が少なく、不備な設計図書のまま施工された結果、過密配筋や納まりの悪い個所があったり、かぶり厚さの不足な個所ができ、ひび割れや鉄筋の発錆が生じた。
 建設省ではこれらの問題に対処するため、総合技術開発プロジェクトとして「耐久性向上技術の開発」を取り上げ、昭和61年にコンクリートの塩化物総量規制とアルカリ骨材反応の暫定対策を策定した。これを受けて、日本建築学会の鉄筋コンクリート工事標準仕様書(JASS5)や生コンのJIS(A5308)が改正され、品質の改善と耐久性の向上が図られた。また、平成9年には性能規定を先取りした形での改正が行われ、仕様書の内容がより充実された。
 その後、平成11年に山陽新幹線のトンネルでコンクリートの落下事故が発生したため、建設省・運右省・農林水産省の3省共同で「土木コンクリート構造物耐久性検討委員会」が設置され、対応策が検討された。一方、建築のコンクリート構造物についても昨年12月に品質確保と長寿命化に向けての提言が発表されたが、その中で友沢委員長は、「大部分の建築物では顕著な問題は発生しておらず、適切な設計と施工時の品質管理、及び長期的な維持保全処置により、耐久性は確保される」とし、仕様書改定の成果が実りつつあるとの判断を示した。確かに最近は建築物について劣化事故の報道はあまり見られなくなったが、これからの建築構造物は本当に耐久性が確保されると言えるだろうか。先に述べた劣化原因はまだ解消されたとは言い切れず、不安要因として残されている。そこで、今後の対応策について私見を述べてみたい。
●骨材資源は無限にあるように見えるが、品質や環境問題を考慮するとかなり厳しい状態にあり、全てについて良好な品質を確保する事は不可能である。そこで、骨材品質について等級を設け、コンクリートの用途や品質に応じて骨材を使い分けるようにする。
●これからは生コンも性能仕様による発注が増え、各種の性能が要求されるようになる。生コンメーカーにはそのための実験・研究が必要であり、技術力の向上や品質保証体制が求められるが、それには高品質なコンクリートには高いコストを支払うと言う共通認識を育ててゆかなければならない。
●工事現場でのコンクリート管理者に公的な資格制度を設け、生コンの検査から運搬・打込み・養生まで一連の施工管理を行えるようなシステムとし、構造体コンクリートの品質を確保する。
 その他いろいろな考えがあるが、まだ頭の中で整理されていないので、次回に譲ることにする。