| １．コンクリートの製造 生コンが一般に普及するようになる1965年頃までは、コンクリートは各工事現場で製造されていた。通常の現場では１６切（１切＝1立方尺）程度のドラムミキサを設置し、コンクリートの打設日ごとに製造していた。その頃はまだ河川砂利が豊富で、良質な骨材を選択できたが、セメントは高価であったので、如何に少ないセメント量で所要の強度が出せるかが製造担当者の腕の見せ所とされていた。調合はセメント１袋（50kg）に対する砂･砂利の割合を嵩容積で示す現場容積計量が主で、1963版のＪＡＳＳ５までは所要強度に対する水セメント比とスランプおよび砂･砂利の寸法による配合比率が表示されていた。容積計量のばらつきを少なくするため、戦前にはイナンデータ（砂を水槽に漬けて計量容積を一定にする装置）やウオセクリータ（ペーストを先練りして水セメント比を一定にする装置）が使われたりしたが、重量計量に移行するようになってからは次第に使われなくなった。1965年版のＪＡＳＳ５からは重量調合に移行し、調合設計や品質管理に統計的手法が導入された。 わが国で最初にバッチャープラントが使用されたのは1951年の新丸ビルの建設工事で、２１切のミキサが4台設置されていた。その後、操作方法は手動から半自動、全自動へと改善され、コンクリートの品質や製造能力が向上したので、大規模な住宅団地や原子力発電所の工事現場では全自動のバッチャープラントが採用された（写真1）。また、中小の工事現場には簡易バッチャープラントが普及した。しかし、高度成長期に入るとコンクリートの使用量が急増し、工事現場での製造が追いつかなくなった。その頃から生コン工場が全国各地に設置され、どこでも容易に購入できるようになったので、次第に生コンを購入して使用するようになった。 当初はまだ生コンの品質に対する不信があったが、ＪＩＳマーク表示制度の実施（1965）、コンクリート技士制度の発足（1971）などによって生コンの地位が確立され、1975年版のＪＡＳＳ５から生コン主体に切り替えられた。この変革は時代の流れに応じたものであったが、一方では工事現場技術者のコンクリート知識の低下、生コンまかせの品質管理体制などの問題点が残された。 ２．コンクリートの運搬（場内） コンクリートの垂直運搬には、主としてコンクリートタワーが使用されてきた。とら綱を張ったコンクリートタワーは遠くから見えるので、工事現場の象徴となっていた。タワーで揚重されたコンクリートはねこ車（カート）で打設場所まで水平運搬されるが、その容量は0.1ｍ3程度であったので、コンクリートの運搬・打設に多くの人力と時間を要した。それでも1日の打設量が少ないうちはよかったが、工事量の増大に伴ってもっと効率的な運搬手段が求められ、次第にポンプ工法に移行した。 コンクリートポンプは戦前から欧米で開発されており、主に土木工事で使用されていた。当初は機械式で振動や騒音があり、故障も多かったが、1960年頃から油圧式ポンプが生産され機能も向上した。建築現場でもその頃から使はれ始め、車両搭載型のポンプ車の出現（1964）やブーム付きのポンプ車の導入（1966）によって機動性が増したので（写真2）、ポンプ工法の採用が一段と進んだ。しかし、技術が未熟なまま急激に普及した結果、閉塞事故の多発やコンクリートの品質低下を招いたので、日本建築学会では1972年に「コンクリートポンプ工法指針」を制定し、改善に努めた。また、1984年には圧送施工技能士の制度が創設され、圧送技術の向上が図られた。現在ではポンプ車の圧送能力も向上し、軽量コンクリートの高所圧送も200m以上可能になった。 コンクリートの品質変化が少ないコンクリートバケットは、従来建築ではあまり使われなかったが、最近高強度･高品質を必要とする超高層ＲＣ造の工事によく使用されるようになった。 ３．打込み･締固め コンクリートの運搬がタワー･カート方式からポンプ方式に移行するにつれ、コンクリートの打込み･締固め方式も大きく変化した。以前は回し打ちが原則で、ねこ車から投入するコンクリートを割り竹で突いたり、型枠を木槌で叩いたりする人海戦術がとられていた。過密に配筋された型枠内にコンクリートを充填させる必要から、スランプは21〜23�僂�一般的であった。これに対して、ポンプ工法では打設箇所まで配管しておき、圧送されてくるコンクリートを片押しで連続的に打ち込めるので、打設量の増大や省力化を図ることができた。しかし、締固め不良による構造欠陥や品質低下が社会的問題になったので、1986年のＪＡＳＳ５の改正ではコンクリートの耐久性向上と品質改善を目指し、単位水量185kg／m3以下、スランプ18�儖焚爾箸いΩ靴靴さ�制が定められた。当初は抵抗があったが、流動化剤や高性能AE減水剤の出現によって対応できるようになり、現在ではこれらの値が定着しつつある。 振動機は本来固練りのコンクリートの充填に使うのが原則で、戦後版のＪＡＳＳ５でもスランプ15�儖幣紊両豺腓亙篏�的に使うように規定していた。しかし、その後コンクリートの調合やスランプが改善されたこと、施工性や充填性の確保が必要とされたことなどから、次第に全面的に使用されるようになった。 欧米で一般に行われているＨＶ分割工法は、配筋が複雑なわが国では実施困難とされてきたが、1972年に椎名町アパート（ＲＣ造１８階建て）で採用されて以来、高層ＲＣ造ではこの方法が主流となった。また、1988年には流し込むだけで型枠全体に充填できる締固め不要なコンクリート（高流動コンクリート）が開発され、ＪＡＳＳ５でも1997年の改正で取り入れられた。流動性の測定にはスランプでなくスランプフローが用いられ、60〜70�僂棒瀋蠅気譴討い襦８什澆任呂泙盛欖疋灰鵐�リートの圧入などに使用されている程度であるが、コンクリート打設の省力化のために今後の発展が期待される。 ４．プレハブ化、高強度化 コンクリートのプレハブ化は戦前から試みられていたが、本格的に進められたのは日本住宅公団（現都市再生機構）による工業化住宅の建設（1957）からである。最初は低層住宅用として大型ＰＣａ版を組み立てる工法（Tilt-UP工法）であったが（写真3）、その後Ｈ型鋼とＰＣａ版を組み合わせたＨＰＣ工法へと発展し、大規模な高層団地の造成に適用された。また、一般の建築物でも各層ごとに鉄骨の柱・梁を組み、これに床･壁･カーテンウォールなどのＰＣａ版を取り付けてゆく積層工法が開発され、ホテルニューオータニタワー（1974）他多くの建物に適用されるようになった。最近では一部を打ち残したハーフＰＣａ部材を用い、後でコンクリートを打設して一体化するＰＣａ複合工法が増加しつつある。 コンクリートの設計基準強度は終戦当時21N／��2以下であったが、椎名町アパートで初めて30N／��2-の高強度コンクリートが使用された。ＪＡＳＳ５では1975年の改正で高強度コンクリートが設けられ、36N／��2まで使用できるようになった。その後高層ＲＣ造が次第に増えてきたので、1988年には建設省（現国土交通省）のＮewＲＣプロジェクトが発足し、高強度化の研究･開発が進められた（写真4）。その結果60N／��2を超す超高強度コンクリートも可能になり、最近では150N／��2の高層ＲＣ造マンションの計画も進められている。 おわりに これまで3回にわたり戦後のコンクリート技術の発展を述べてきたが、説明不足や検討不十分な事項があったことをご容赦願いたい。これらについては多くの資料があるが、セメントコンクリート誌の500号記念「特集･コンクリート技術の発展」（1988.10）やコンクリート工学誌の400号記念特集「コンクリート温故知新」の技術年表（1991.10）によくまとめられているので参照していただきたい。 | 写真1 ホテルニューオータニ 本館工事のパッチャープラント
写真2 ブームS・Tポンプ車 写真3 Titl UP工法による 写真4 New RCプロジェクト実験建屋(600N/��2) |
