昨年10月、私は北海道の小樽港を訪ねました。そこには、今、私が提案している「ひび割れのないコンクリートの造り方」に共通する、「密度を高める施工法」で構築した防波堤があることを知ったからです。当時のセメントは良質とはいえず、しかもそれを少量しか用いず、更にはAE剤を混入しなかったコンクリートが、極寒と荒波の環境下におかれながら、凍結の被害を蒙ることなく、100年を過ぎた今も健全な姿をとどめている状況を確認するためでした。
間近で観察できるように、港湾事務所の方が用意して下さった船から見たそれは、角部と表面に、波ですり減った跡が認められるものの大きな損傷はなく、その姿は重厚感に満ちあふれたものでした(写真右上)。想像していた通り、密度を高める施工法の成果がそこにはあったのです。 一方、同じ港内で偶然目にした消波ブロックはひび割れが進行中で、既に崩壊しているといえるものもありました(写真右下)。恐らくは昭和中期以降に設置されたものだと思われますが、防波堤よりもはるか後に造られたものでありながら、情けない状況でした。これは、現在のコンクリートに対する考え方に起因して生じた問題であるように思われます。つまり、圧縮強度が重視され、耐久性に関わる密度や吸水率が無視された結果です。 写真左は、昨年竣工した戸建て住宅地下室の壁です。施主を交えた打ち合わせで、工事関係者にコンクリートの密度を高める方法を解説し、鳶職の人たちがそれに初挑戦したものです。水量の少ない固い生コンを使い、充填や締め固め作業を入念に行なうなどし、更には型枠解体後も、その全面に乾燥防止目的のシートを貼り付ける養生作業などを、作業担当者に直接指導しながら施工しました。従来の施工方法とはかなり異なる、担当者にとっては初めてづくしの作業でしたが、その成果として壁面にはガラス質の強固な層が構築できました。つまり、高耐久のコンクリートが完成したのです。 高耐久性を有することが実証されている小樽港防波堤の建設においては、コンクリートの大先生である故廣井勇先生が、「密度を高める施工法」を作業担当者たちに直接指導されたと聞いています。時を経た現在も、それを実践することの重要性を強く認識させられている次第です。 消波ブロック 小樽港防波堤 住宅地下室(型枠解体後) |