- 世の中IT革命花盛り ・・・・・石井嘉昭
はじめに
サーツ会報編集部から送られてきたメールに、サーツ会報VOL6の執筆依頼と締め切りが8月21日であることも書かれていました。ああこれで今年の夏休みは大変だと覚悟を決めた矢先、今津編集委員から電話があり、「了解していただいたら、メールで返事をください」とのこと。ネット社会のマナー集(ネチケット)なるものに「もらったメールにはすぐに返事を」とありました。こんな簡単なルールも無視していてはIT革命に乗り遅れそうです。ちょうどその頃「そごう」の問題で、一企業の救済に国民の税金を使うこととはまかりならぬということで法的処理がなされました。新生銀行がらみで破綻が噂されているようなゼネコンは、間もなく「そごう」と同じ運命を辿るだろう。
一方政府はゼネコン救済を名目にした公共事業に税金を使うだろうなどといわれていました。(その後ハザマは債権放棄を要請し主力銀行も受け入れる模様です。)建設業を取り巻く環境は非常に厳しいものがあります。私は昭和40年代の高度経済成長期に建設省に入り、中央や地方の合同庁舎をはじめ時々の行政ニーズに対応した官庁施設の建設に携わってきました(写真1、2)。バブル崩壊後の平成不況のこの時期には、建設会社に籍をおいています。
世の中はIT(情報技術)革命の真っ只中にありますが、この不況を乗り切るにはIT関連の産業の発展に負うところが大であります。不況の中で小さなパイを奪い合う建設業はIT革命によってどのように変わっていくのでしょうか。
- 日本の建設産業
我が国の建設産業は、国内総生産の14.4%に相当する約72兆円の建設投資を担うとともに、全産業就業人口の1割を超える662万人の就業者を擁する我が国の基幹産業です。建設業許可業者数は、99年3月末で約58万社ですが、資本金
1,000万円以下の中小零細業者が6割を占めています。大手ゼネコンから個人経営業者まで平均すると一社あたり11人の従業員で、1億2千万円の売り上げを上げている業界です。日本を支えてきた古い産業界にリストラの嵐が吹き荒れています。
本来リストラとは、企業の既存の経営資源を「再配分」して、事業を「再構築」することを意味する「リストラクチャリング」の略です。しかし、現在の日本で使用されるリストラは「業績悪化を理由にした経営合理化・縮小による企業再建および組織の統廃合に伴う、人員削減を中心とした雇用調整」を指すようです。建設業におけるリストラは、不良債権を抱える企業の生き残りを賭けた戦いであり、人件費削減を目的としたリストラによる犠牲者は建設技術者であり技能者です。リストラされた建設労働者はより小さな企業へ安い賃金で再就職していきます。他の産業でリストラされた労働者も建設業界に流入してきます。景気の下支えという名目で公共投資に注ぎ込まれた公的資金は65兆円に上りますが、ようやく景気回復の兆しが見えてきたようです。
しかしここに至って、公共工事に対する世論の風当たりは相当厳しく、公共事業の見直論がでてきました。建設省は各地方ブロック毎に河川、道路、下水道の施設管理用光ファイバー及びその収容空間を民間事業者に広く開放することにより、民間事業者の情報通信インフラ構築の手助けをしようとしています。郵政省は「もう光ファイバーの時代ではない」と建設省を牽制しています。来年度予算はシーリング枠をはずし省庁再編を機会に縦割り行政の弊害をなくすためのアイディアに予算をつけるようです。各省庁の来年度予算の概算要求が出そろったようですが、森総理自らIT関連予算を別途用意して旧来の産業構造を変えていこうという意気込みが見えます。
- IT革命
身近なところでIT革命は進行しています。パソコンや携帯電話の普及に伴いインターネットの利用が急速に増加しています。お盆の里帰りに航空券の予約をインターネットでやってみました。国内航空一発予約というホームページで、目的地と日時を入力して空席確認し、予約後は空港に行ってキャッシュカードを券売機に差し込むだけです。昔、新幹線の切符を取るのに行列したことに比べると便利になったものです。銀行振り込みや銀行取引明細のダウンロードなども出来て、わざわざ銀行に行く必要もありません。株の取引もインターネットが主流になるようです。
昨年、高校の同窓会でIT関連の仕事をしている同窓生の提案で、ヴァーチャル同窓会なるものが始まりました。メールのアドレスを登録すると、毎日同窓生から面白い話が届きます。外国からの同窓生からのメールなど懐かしく読ませてもらっています。メールでは言葉足らずで誤解を生むことがあります。読みたくもない長いメールに対して「迷惑している。止めてくれ」という一言から、「続けろ」、「止めろ」と議論続出しました。就職活動にもインターネットはなくてはならないものになっています。会社の案内をホームページで見て自分の履歴書をメールで送る。会社も学生も互いに情報を公開しながら目的を達成していきます。新入社員は何の障害もなく会社のIT関連のシステムに取り組むことが出来ます。会社でも各個人に一台のパソコンが配置され、社内のイントラネットを利用して、旅費などの諸経費の請求をしたり、社内の連絡事項など日常業務にパソコンが放せなくなりました。今やベテラン社員といえども朝会社に来ると、まずパソコンを立ち上げメールを見る習慣が付いてきたようです。
国内ネット利用者は、99年末で 2,700万人、2005年には7,600万人まで増え、人口普及率は6割と予測しています。iモードによるネット利用を含めると普及率は8割なるという予測もあります。電子商品取引について、99年の企業間中間財取引市場の規模は14兆円を超え、消費者向けの最終消費財取引市場も3,500億円と推計しています。IT革命により、「場所」や「時間」を選ばない電子商取引が猛烈なスピードで進展しています。インターネットで商品を選び、購入してしまう世の中では、アイディアと奇抜性、スピードで勝負してきたベンチャー企業が、次々に現れ、大きな利益を享受しています。ネットワークで結ばれたIT社会では位置や距離の格差が相対的に低下する社会になります。しかも、世界均一料金のIT社会では、隣の人との電子メールのやり取りと、地球の裏側の人とのやり取りは経済的に見てまったく差のないことになります。
- 建設業界におけるIT革命
世界第1位のパソコンメーカーであるデルコンピュータは、すべての製品を注文生産しています。IT関連分野は、注文生産、ユーザー主導の市場に加速度的に変化すると見込まれます。建設業も注文生産であることを考えると、建設業界のIT革命に対するヒントがありそうです。建設産業は、多種多様な業種が生産行為を行うことや、市場規模の大きさ、商品取引量の多さなどから、電子商取引による合理化効果が大きいとみられています。多くの会社が関与し、しかもその会社の中でも多数の人が複雑にからみ合い建設生産システムを形成しています。注文生産である建設工事は情報処理が難しい分野ですが、建設生産システムをITの活用で効率的に動かすことが出来ます。
- 霞ヶ関官庁街の東京高等・地方・簡易裁判所合同庁舎
- 上野公園にある法隆寺宝物館