記憶に残る仕事・パレスサイドビルの二方向空気吹きだし・・・・・石福 昭

 新しい技術を多くの人に認めてもらい、それがあたかも元々あった技術であるかのように世の中に定着していき、何年も何十年も過ぎて後世の人が振り返ってみて、これは誰がどのような切掛けで始めに考えたのだろうと、関係する資料を紐解いていったときに、始めの人々の名前や顔が浮び上ってくること。後世になってこのようなことがあれば、今を生きていて最も幸せに感じることと思う。
 建築技術支援協会は初代の常務理事・米田雅子氏の問掛けで始まった。私は何番目に問掛けられたのか知らないが、私自身が建築に関係するようになって30数年の間、多くの先輩に教えられ、その方々が日本の会社の仕組みによってそろそろ定年を迎えることについて何か寂しいものを感じていたし、その後、この会の趣旨文に書かれることになった全ての内容に同感するところが多かったので、是非作るべきと即座に答えた。この会の名称は準備会を始める前に、やはり米田雅子氏が当時東京大学教授の秋山宏先生に相談しているとき、秋山先生が命名して下さったそうである。
 イギリスにはナショナルトラストと言うNPOがある。自然保護、古い建築・庭園などの保護を行っている伝統ある組織である。建築技術支援協会も何十年か後に日本の建築、建築技術のためになくてはならないNPOに育つことを期待する。創刊号に当たり、後世の人のために始まりの話を記録に残させていただいた。昨年の11月に28人の会員で設立総会を行い、約半年が過ぎ会員は70余名になったが、不思議な事実、当然のことと言ったほうが良いのかも知れないが、この会のことを説明して、その必要性に賛同した人はいても、反対した人は一人もいないということである。
 新しい技術が多くの人に認められるためには、「筋の良い技術」であることが絶対条件である。これと同じように、新しいアイディアのもとに作られる組織にも「筋の良さ」が必要である。もう一度、この会の設立趣旨文を読んでいただきたい。これほど筋の良い協会は他には考えられない。本質的にこの協会は大きく育つことが保証されているようなものである。
 新しいものを成就させるにはもう一つ重要なことがある。二千数百年前に書かれた「孫子の兵法」にある激流の計、つまり物事を成就させるのには大きな石を千仞の谷にころげおとすような、誰にも止められない勢いが必要である。高い山の上に全てが順調に進む広い平原があるとする。今は山の上に押し上げている段階である。多くの人の後押しにより、勢いをつけて、本協会を山の上の平原にのせ、順調に活動できるようにしたい。
 同時に代表理事を務めて下さっている松村秀一氏は建築技術のブリッジング、つまり専門家と一般の人、先人と後輩の間で技術の橋渡しが必要であると以前から唱えており、この会の必要性を始めから認識した方である。ほとんどの会合は東京大学の坂本・松村両先生の研究室で行っている。常務理事を務めて下さっている阿部市郎氏はツーバイフォー協会などの設立者として有名な方であり、本協会の立ち上げに全力を上げて下さっている。NPO法人の申請は昨年の12月16日に行ったが、申請に必要な煩雑な書類は堀井秀治氏がお一人でまとめて下さった。このほか創刊号に記して謝意を述べなければならない人々は沢山いらっしゃる。それは全ての会員であり、支援して下さっている関係の学会・協会の方々でもある。遠くない将来に恩返しができれば、大成功である。 
 今後の御指導をよろしくお願いいたします。
(パレスサイドビル/営団地下鉄東西線竹橋駅上)