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１．ユニタリーシステムの登場
空調方式を大きく二つに大別すると、中央方式とユニタリー方式に分けることが出来る。かつて、大規模建物は、すべて中央方式によって空調され、ユニタリー方式は、住宅その他の小規模建物、または大規模建物のごく一部に補助的に採用されるに過ぎなかった。
しかし、1970年代後半から、このユニタリー方式が大規模建物にも全面的に採用されるようになってきた。「自治医科大学（1975年竣工）」「住友生命名古屋ビル（1976年竣工）」などがその先駆である。
各種ユニタリー方式のうちで、現在の主流は空気熱源ヒートポンプによるビル用マルチ方式と水熱源ヒートポンプによるクローズドループ方式である。
この二方式の意味するところは建築界にとって極めて重大である。それは、この二方式が従来になくプレハブ化されたものであり、その設計作業は、機器の選択と配置のみで、その施工は、機器の納入と設置のみとなるからである。極言すれば、従来的な設備設計者、設備施工者を不要とするものなのである。空調設備は、コンストラクションマネージャーと機器製造業者によって完成する。
２． 空調方式としてのパッケージユニット
ユニタリー方式の主要機器であるパッケージユニットは、我が国では1951年、ダイキン工業によって量産化された。また、一馬力ウインド型ルームエアコンが1953年、東芝から発売された。以来、このパッケージユニットは、大メーカーをバックにその出荷量を確実に増加していった。
そのパッケージユニットを利用した空調が、空調設備における一つの方式、ユニタリー方式として認知され、空気調和・衛生工学便覧に取り上げられ、その一節として数ページにわたる記述がなされたのは、その第９版（昭和50年）、1975年からのことである。米国のASHRAE Handbookに空調方式として登場したのは、1973年版からであった。
機器としてのパッケージユニットが、すでに長い実績を持ち、空気調和・衛生工学便覧、ASHRAE Handbookなどに、以前より詳細に記述されていたのに反し、このように、パッケージユニットを利用した空調が、一つの空調方式として取り上げられたのは1970年代の後半なってからである。
３．中央式空調の普及
米国でパッケージユニットの市販が開始されたのは1929年のことである。また、パッケージユニットが技術的完成を見たのは1930年代もその後半である。したがって、当時、事務所建築に採用された個室制御用のパッケージユニットは、その初期の物であり、形も大きく、発生騒音も大きく、故障も多く、事務所用の空調設備としては使用に耐えず、全くの不評に終わった。
このような決定的な不評が、新しいシステムの発展にとって、どのような意味を持つものであるかを、我われは多くの事例から知っている。それは、根強い偏見により、システムの正しい評価の妨げとなる。建築空調の分野にあったパッケージユニットに対する根強い偏見は、このころ作られたものなのである。
このようなパッケージユニットの不評から、劇場その他の大空間空調で高い評価を得ていた中央式を、高層事務所建物にも適用しようとする努力が開始された。たとえば、すでに述べたキャリア社のインダクションユニットの開発がその顕著な成功例である。米国において最初のインダクションユニットが1930年3月に設置され、1934年までに23の建物がこれを採用した。インダクションユニットは、以来、多くの改良が加えられて急速に普及し、その1で述べたように、米国における高層事務所建物の95％は、このシステムによると言われた時代があった。
４．パッケージユニットの再登場
一方、この中央式の華々しい発展と並行して、パッケージユニットも、また驚くべき発展を遂げていた。それは、この中央式の採用が絶対に不可能な車両、住宅、自動車などの分野においてである。
米国のおいて、第二次世界大戦までに年産131,000台に達したパッケージユニットの生産は、戦後1946年の27,000台から1950年の1,000,000台、そして、1968年には4,000,000台にまで達していた。また製品はより小型化し、より取り扱いが容易となり、より信頼性が向上し、より安価なものとなっていた。この間の事情は、多少、時間的、量的なずれはあっても、我が国でもまったく同一の経緯を辿った。例えば、昭和３2年（1957年）に7432台であったパッケージユニットの生産は、昭和43年（1968年）には124,658台に増加している。また、そのデザインが急速に洗練されているのも、その事情は米国の場合と全く同一であった。
しかし、この飛躍的なパッケージユニットの発展は、一般建物空調とは別の世界の出来事だったのである。その生産体制も販売体制も一般建物空調とは異なっていた。一般建物空調は受注生産であり、専門の空調設備設計者、施工者により設計され、施工されていたのに対し、パッケージユニットは、大量生産品であると同時に、その多くは、最終需要者に直接に売られるものだった。
このように、一般建物空調とは異なる分野で洗練され量産化されたパッケージユニットが、一般建物空調に対する一つの空調方式として再び登場する訳であるが、その時期は以外に遅く、さきに述べたように1970年代後半になってからである。そして、その最大の原因は、初期のパッケージユニットに対する、あの根強い不信感であった。また、この偏見ともいえる不信感を、より根強いものにしたのは、建物空調における既に確立した設計施工体制にあるとも言えるだろう。心情的には、設計者、施工者の職域を侵すかもしれないパッケージユニットに対する潜在的な嫌悪感といったものを無視することは出来ない。
５． ユニタリー式空調のリーデングヒッター
中央式空調のシェア縮小に対し、ユニタリー式空調のシェア拡大は急速だった。ビル用マルチタイプ空調機は、通称ビルマルチと呼ばれ、1982年頃から市販が開始された。ビルマルチは、従来の室外機、室内機、1対１対応のエアソースヒートポンプ式セパレート型エアコンを、1対複数台に対応したものである。
ビルマルチの普及には、圧縮機の最適回転数制御を行う低価格なインバータの出現によるところが大きい。また、電子流量制御弁、マイクロコンピュータなど、最近のエレクトロニクス技術を駆使したメカトロノクスの成果でもある。
現在、多くの機種が市販されているが、その主な対象は、3,000�岼焚爾涼羮�ビルだった。しかし、その後は、大規模ビルにも採用される様になってきた。梅田センタービル（地下2階、地上23階、延べ床面積80,088�屐�基準階面積2,109�屐�大阪市）や鹿島建設本社ビル（地下３階、地上20階及び18階、延べ床面積36,000�屐�東京都）での採用がその好例である。
おわりに
最近のAIコントロールによる高度なマルチ空調システムは、高度なIC技術の支えなしには実現しなかった。一方、IC技術も高度なクリーンルーム空調技術の支えなしには実現しなかった。この様に、自由な経済と社会のもとで、技術は、互いに他の技術に支えられながら発展して行く。
また、技術は、自由経済市場で急速に発展する。何故なら、自由な市場では、商品に対し、常により優れた性能と新たな価値を要求する。そして、この性能と価値は、技術革新によってのみ獲得されるものだからである。ユニタリーシステムが、今日の空調システムの主流となり得たのも、この技術革新の賜物である。
戦後、我が国の空調技術は、自由経済市場の下で急速な発展を遂げ、今日の豊かな社会の実現に貢献した。しかし、この豊かさは、自然環境の犠牲のもとに実現し得たものである。そして、この犠牲は、いずれは、このかけがえの無い地球環境ををも犠牲とするものである。それ故にこそ、これからの空調技術は、限りなく人に優しく、そして、限りなく地球にも優しいものでなければ許されないだろう。
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