「空調設備技術の変遷 その2」・・・・ 石福 昭

1 わが国で独自の発展を遂げたファンコイルユニット方式
 わが国でファンコイルユニットが最初に設置されたのは1941年で、大阪見本市会館の国際ホテルに、新晃工業によって納入された。筆者もこの方式を体験するために、このホテルに宿泊したことがある。その最初のファンコイルユニットは、プロペラファンを使用した幼稚な物だった。その後、フアンコイルユニットは急速に改良され、1950年代後半には、前節で述べたインダクションユニットの対抗機種としての地位を築いてしまった。
 戦後のオフィスビルの一つの特徴は、全面ガラスに代表される大きな窓である。この場合、窓面には、大きな冷暖房負荷が発生し、この負荷を処理するために窓面専用の空調ゾーンが必要になる。この空調ゾーンは、一般にペリメータゾーンと呼ばれ、今では建築計画の常識的用語ともなっている。これは、戦後普及したカーテンウオール構造とこれに伴って増大した窓面積率の齎した新しいコンセプトなのである。
 事務所建築のペリメータゾーンに対する最も一般的な空調方式として、わが国ではファンコイルユニット方式が採用されるようになった。わが国の戦後のオフィス空調の主流は、ファンコイルユニット方式だったといって異論は無いだろう。「空調設備技術の変遷その1」(PSATS Vol.023)の表で示した昭和40年代のわが国の代表的な超高層建物の空調方式の後半8例のうち6例は、ペリメータにファンコイルユニットを採用していた。
 しかし、その後の省エネルギーに対する建築の傾向は、この窓面からの大きな冷暖房負荷を建築的手法で軽減するようになってきた。エアフローウインドなどの建築的手法によりペリメータ負荷を軽減した「大正海上火災本社ビル」(1988年竣工)、「新潟県庁舎」(1985年竣工)などにはペリメータ用ファンコイルユニットは設置されていない。現在ではペリメータゾーンのファンコイルユニット方式は、すでにオフィス空調の主流ではない。

2 省エネルギー空調の代表的システムVAV方式
 二重ダクト方式は、高度な空調方式の代表として米国から輸入され、一部の高級オフィスビルあるいは研究所などの特殊空調に採用された。「中電ビル」(1963年竣工)、「新日鉄ビル」(1970年竣工)などがその主なものである。
 しかし、この方式は、高価な工事費と運転費から、空調設備の主流としての地位を占めるには至らなかった。大型のエアダクトが、冷風用、温風用と2本必要なことは、スペースの貴重なビル空調にとっては不利だった。また、混合箱による混合損失も省エネルギーの立場からは不利な性質であった。だが、この混合箱の要素技術となっている定風量装置は、次に登場するVAV方式に引き継がれ、全く新しい展開を見せた。
 VAV方式のわが国におけるプロトタイプは、「三越高松支店」(1968年竣工)に求めることが出来る。だが、当時その採用例は極めて限られていた。VAVは、多くの利点が認められながらも、当初のVAV用機器が未完成だったからである。「三越高松支店」のVAVユニットも二重ダクト用混合箱を改造したものだった。
 VAV方式の原理は、「開閉できる窓」と言われる。この「開閉できる窓」が、空調でシステムとしての地位を占めるには、信頼性の高い、安価な定風量装置が不可欠だったのだ。もし、信頼性の高い安価な定風量装置がなかったら、VAV方式は、現在の地位を占めるには至らなかっただろう。
 産業プロセス換気に定風量装置は以前から用いられていた。しかし、空調設備として多用されるようになったのは、二重ダクト方式以降である。二重ダクト方式の温度制御機構は、定風量変温度であり、変風量定温度のVAV方式とは逆の機構である。しかし、その機構の要素技術である定風量装置は共通のものだった。
 1971年以降、VAV用機器の供給体制が確立してから、VAV方式はそのシェアを急速に拡大していった。その省エネルギー性、個室制御性、低廉な工事費まどが高く評価されたためである。いまや、VAV方式は省エネルギー空調の代表的方式の一つとなっている。
 わが国におけるVAV方式のプロトタイプとしての三越高松支店が竣工してからすでに30年あまりを経過した。その1の表の前半9例にはVAV方式は全く採用されていない。しかし、後半の8例ではその三分の一強の3例がVAV方式を採用している。

3 高度化する空調機とVAV       
 中央方式空調の主要機器である空調機(エアハン)は、ファンコイルユニットの退潮に対し、むしろ増加の傾向にあった、この傾向には、クリーンルーム用などの工業用空調の影響もあるが、シェアを漸減する中央式空調の中で、空調機は決して退潮の機種ではないことを示している。
 最近の空調は、従来通用していた空調の評価基準としての単なる温度制御機能だけでなく、より総合的で高品質な空気環境の造成を目的とする様になってきた。この場合、分散式空調、あるいはファンコイルユニットなど空気処理機能の不十分なユニタリー空調機だけでは、この目的を十分に達成することはできない。このような目的には、冷却、減湿、再熱、除塵、脱臭、消音など、空気の高度処理が自由に完全に行える空調機こそがその適合機種となる。また、外気冷房、導入外気量制御、送風機回転数制御など各種の高度な省エネルギー技術も、空調機でこそ十分に達成することが可能となる。
 このような理由で、最近の空調機は、従来になく高度化、システム化、AI化の傾向を辿ってきた。システムエアハンは、その周辺機器の総てをパッケージ化し省エネルギー性、快適性、省スペース化、工事の省力化などと同時に、マイクロコンピュータの活用により、そのAI化を達成した機種である。
 システムエアハンと共に中央式空調を構成するVAVユニット、ミキシングユニットなども、最近はその性能が著しく向上している。従来、システム設計上の問題点とされたVAVユニット内の圧損が、風速センサーなどの採用により改善されてきたからである。また、二重ダクト用のミキシングユニットも、混合ロスの防止、VAVの併用などによる省エネルギー化により、その優れた空調性能が再評価されている。
 システムエアハンの採用例としては、ツイン21ビル(1986年竣工)がある。コージェネレーションを採用した完全な中央式冷温熱源設備に対し、各階12台のシステムエアハンを設置している。この建物のペリメータにはファンコイルユニットは設置されていない。

 

図-1 ファンコイルとエアハンの出荷台数 (日本冷凍空調工業会出荷統計)

図-2 システム化されたユニット型空気調和機 (「優良認定の実施経過などについて」 IBEC 1988-7)