- 「記憶に残る私の仕事」として、延べ床面積一万坪を超える作品がいくつもありながらも、地味な集合住宅の建設費のコスト・ダウンを選らんだのは、使命感に燃えて、この13年間集合住宅分野を守りぬいた仲間を思うからである。
1991年という年は忘れられない年となった。バブルの頂点にあって、その陰りがかすかに見え始めた年でもあった。この年正月に、国土庁の局長と建設省の審議官から、同じ事を尋ねられ、答えを求められた。それは、共同住宅の建設費高騰の理由であった。ちょうどその時点では、戸建住宅の価格や資機材は安定横ばいであったにもかかわらず、共同住宅をはじめとする鉄筋コンクリート系の建設費は、バブル以前のほぼ倍に高騰しており、社会的な問題として取り上げられようとしていた。残念ながらこの時、この鉄筋コンクリート系の建設費の高騰を、社会問題につながると感じた行政の感受性は、当時の建設業には見受けられなかった。一ヶ月ほどの時間を貰い、各種データをひねくり回した結果、高騰の理由は、3点。それぞれ略三分の一ずつの重みであった。第一は人件費の高騰、第二は住宅の質の向上、第三は建設産業界の元下関係における水脹れである。可逆性を期待し難い人件費の高騰や質の向上はさておき、ともかく元下関係における水脹れの解消は急務とおもわれた。行政からも、強く建設費の安定の具体策とその実施を迫られた。まだまだバブルの恩恵に浴していた当時の建設業において、コストダウンを目的とする検討と実施の仕組みを編成することは困難を極めたが，ようやく半年後に検討チームを作り上げ，水脹れの排除に取り掛かることができた。
この時を起点として、今日に至るまで、この検討チームは集合住宅の原価低減の役割を担い続け、今現在、東京だけで100名を越す集合住宅に特化した専属集団として、独立採算可能なチームに成長した。この経緯とその成果は４３年にわたる社会人としの最も誇るべき仕事であったと自負している。大手ゼネコンの中でも唯一建築専業（土木を別会社にしている）の竹中工務店は建築の原点として集合住宅を欠かすことのできない、大切なものとしてきた。しかし他方、集合住宅は、工事利益が出難く、スピードと多くの労力を要する、経営上採算性の極端に低い分野というレッテルを貼られていた。労多くして報われない、努力しても努力しても陽のあたる場所にならない。そうした思いの中でも集合住宅に対する使命感に動かされて、努力を続けた何人かの心あるものが、この検討チームの先頭を切ることになった。その進め方は、目標価格とモデルを設定し、可能な限り詳細な原価把握を起点とした。この原価把握によって、多くの、コストダウンに繋がる新しい事実の発見と合理化の手段の追求が可能となった。コストダウンにはいろいろな視点があったが、その要点は次の２点である。
�／遊鑒顱雰�設費全体の約30％）の削減
主に労務比率の高い躯体工事において、時間当たりの人件費を縮減せせることは、いくらバブルでの行き過ぎが激しかったとはいえ、困難を伴うこととの認識のもと、労務工数管理による、生産性の向上に努めてきた。集合住宅の労務工数は、1991年全国2.9人/�屏�2003年2.4人/�屐�特に高級物件の多い東京では1991年4.4人/�屏�2003年3.0人/�屬函�建設業全体の生産性が低迷する中で大幅な合理化が進み、現在、種々の技術開発の積み重ねの効果も加え、塔状超高層集合住宅で1.5人/�屐�板状高層住宅で2.0人/�屬髻�下回ることが可能となっている。
�∈猯組顱雰�設費全体の約30％）の削減
材料比率の高い仕上げ工事を中心に、部品分割による部品生産の合理化を図ってきた。分割された部品郡の中で、竹中オリジナルと称する独自の開発部品のラインアップを編成し、その組み合わせにより、個別ディベロッパーの販売促進にも役立てつつ、分割部品の集約購買やその流通経費の合理化も含め、大幅なコストダウンを可能としてきた。
1991年以来13年間、この2点を努力目標の柱としてきたが、ほかに挑戦した事柄は枚挙に暇がない。どのような些細なことでも、僅かな額でも、疎かにせず、気付いたことを一つ一つ潰していくという努力を、日毎、プロジェクト毎、積み重ね続けた結果、
�� 件数、面積、金額どこから見ても集合住宅が主役となってきた
�� 集合住宅で開発された諸技術が、オフィスビル等他の建築分野に大幅に展開されている
（構工法、施工管理手法、作図のシステムと体制、竹中オリジナル部品等）
�� 特に、現時点で最重要課題である質の低下をもたらさない原価低減の手法開発と実践が集合住宅分野で先行している
等の説得力ある成果が、今後に役立つ。
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