安部コラム

建築基準法改正（特に構造規定）に思う・・・・・安部重孝

　建築の流れを大きく変えようとしている今回の建築基準法改正及び関係施行例等の改正、特に構造規定改正の１つのベースと考えられる、建設省総合技術開発プロジェクト「耐震建築構造体系の開発」（以下「新構造総プロ」、平成７～９年度）に委員として参加いたしました経緯も有り、まず｢新構造総プロ｣にふれてみます。勿論、本会会員の他のメンバーの方々も参加されていました。今回の改正の主旨の一つが「性能規定化」となっていますが、「新構造総プロ」において設定された課題は　①性能指向型の建築構造設計体系　②建築構造に要求される性能の考え方③性能の水準の考え方と性能評価の枠組み　④性能を基盤とした体系の為の社会機構　と掲げられています。そしてその期待される効果として、性能を明確にした設計の考え方が普及し、建築構造の技術開発が促進され、設計の自由度が増し、国際調和が図られることとしています。これは今回の改正の趣旨とほぼ合致していますが、建築基準法は「国民の生命、健康および財産の保護を図り...。」ための最低限の基準を定めたものであり、「新構造総プロ」は将来のビジョンを示すものとしてその内容が出版物としても紹介されています。
　この「新構造総プロ」が実務的に発足する直前に、兵庫県南部地震による阪神・淡路大震災が発生しました。この阪神震災も耐震性能の捉え方に影響を与えましたが、新耐震設計法による建物の被害が少なかったことから、ピロテイ、鉄骨柱脚等への対応を考慮すれば新耐震設計法の妥当性を得たとして、改正に位置付けられています。性能設計の今後の社会の理解、法律の遡及等も考えて妥当なところでしょう。
　この性能型構造設計法は米国でもVision2000として示され、日米の構造研究者・構造設計者の会議、国際ワークショップでも取り上げられ、この考え方が、性能の選択を可能とするという意味で「住宅品質確保促進法」にも取り入れられ、構造性能に限らず、今後の建物の設計法の大きな流れとなると思われます。ＪＳＣＡ（日本建築構造技術者協会）では、性能設計法を取り入れた建築構造技術者の実務者によるＪＳＣＡ規準を作成中ですが成果が注目されます。従来の仕様規定型の法体系から性能規定型へ変わりましたが改正基準法は最低限の性能を確保するための規定となっています。建築主の理解を求め社会のニーズに合った設計を行うのは設計者です。そのために必要なツールやデータベースと社会機構の整備も今後の課題です。
　21世紀を展望し、社会の変化に対応した建築行政の在り方として、建築基準の性能規定化、設計の自由度を高め、技術開発を促進し、さらに行政事務の民間への開放を目指した建築基準法改正が一昨年（平成1０年）6月12日公布され、第2条（性能規定の導入等）は2年以内に施行とされていました。　本年（平成12年）2月15日改正法第3条に関する政令原案（一部の規定を除く）が公表され、その後、初めて情報公開の試みとして3月、4月と数度にわたり改正原案の一部改正、追加及び関連告示案が示され、それぞれパブリックコメントが期限付きで求められた。そして6月1日に施行されました。さらに遅れて6月2日には免震構造等の構造関連の告示案が示されパブリックコメントが期限付きで求められました。
　これらの運用に当たっては、日経アーキテクチュア等で建設省からは「指導通達」は無くなったが「参考指針」を示す、行政担当者からは「参考マニュアル」を全国主事会議で作成するなどの見解が示されていますが運用に当たっての問題は多いと考えられます。　
　そこで、当会としまして、この建築基準法改正に備えをより確実にしたいと考えておられる建築構造技術の実務者の方々に対し、建築技術イブニングセミナー特別講座として幹事の笠原さんの名づけによる｢建築基準法を解くシリーズ｣として３つのテーマで企画いたしました。
　まず、「建築規準法改正と申請・検査」を民間確認審査側の立場である元東京都建築主事、現在、日本ＥＲＩ（株）（民間確認審査機関として既に実働中）取締役検査部長の奈良幹雄さんにお願いいたしました。次に、今回の改正で、構造設計実務者の関心が高いと思われる、また行政の立場からは従来法以外の選択肢と位置付けられ、性能を基本とする新しい耐震設計法としての限界耐力法について「耐震設計と建築確認」のタイトルで、限界耐力法の基本にある動的耐震設計法に詳しい菅野さんから――いまなぜ性能規定化なのかその背景を検証し、限界耐力法については考え方の基本を――説明していただきました。さらに、今回、賛助会員に入会された鹿島建設（株）小堀研究室の小鹿さんから――実務への適用について例題を示し――解説していただきました。最後に、「新しい構造と建築確認」については、和田先生から――建築基準法の改正によって取りこまれた新しい構造・免震構造、制振構造の紹介――、鋼構造に詳しい松崎さんからは――鋼構造の改正に伴う設計のありかた等について――説明していただきました。毎回、最後の質問は熱心に行われ、関心の深さがうかがわれました。尚、本イブゼミ特別講習会では、笠原さん、内藤さん及び米田さん、加瀬さん、松下さん、小生、が講師をサポートする事務局を務めました。