阿部コラム

　　　「私の住宅五十年史」（５）・・・・・阿部市郎

　三井ホーム（株）に入社したことにより、このとき51歳を迎えようとしていた私は開発技術者として、残りの技術者人生をツーバイフォーに賭けようと踏ん切りがついた。
　プレハブとツーバイフォーの相克に悩むことなく、未だ頭でっかちで実績の伴わないツーバイフォー工法住宅を日本の住宅業界で如何にメジャーに育てるか、住宅建設の歴史をつくる、まことにチャレンジのし甲斐がある機会を与えられたと思った。
　その為にトップメーカーにいて、ツーバイフォー協会の技術部会長として、市場拡大のために協力を惜しまないカナダ・アメリカと、政策的に導入を図った国の公的な機関も巻き込んで、次々に技術開発と共同実験を提案しながら用途拡大のための基準改正に持ち込んだ二十年間であった。
　一社では到底出来ない大規模な技術開発や公的な実験でも、公的団体で大義名分があれば可能となる。その結果法律が改正され使いやすくなり用途拡大ができれば、トップメーカーとしてシェアが拡大し、自社の研究陣を注ぎ込んで協力すれば、研究開発のプロセスに参加することによりノウハウが得られ、さらに若手の有能な人材が育ち、一挙両得であるというのが私の信念であった。
　会社のトップに、これを支持してくれる見識があった故に、私は常に思い切って研究陣を投入することが出来た。この伝統はいまも三井ホームに受け継がれていると信じている。
　昭和53年（1978）の3階建タウンハウス実大実験以後も数年毎に技術開発と大きな実験が行われてきた。以下に時系列的に記す。
・昭和53年（1978）　小屋裏利用3階建タウンハウス実大火災実験、（（社）日本ツーバイフォー建築協会・建設省建築研究所共同実験）
　これは、当時はいまだ木造3階建長屋（タウンハウス）は許されておらず、この実験が突破口となり北米的なコモンスペースを持つタウンハウス特認への道を開き、やがて小屋裏3階住宅がオーソライズされることになった。実験建物は４連戸で中側の住戸に着火しこれが燃え尽きるまで実験をしたが隣戸はまったく異常なく、燃焼した側の戸境壁のせっこうボードを鎮火後剥がしても壁内はまったく異常なく、内装防火の威力を意識付けられた。この時は基準法では認められていないが、将来の正3階建を視野に入れて正3階構造躯体を別に建てて構造実験を行っている。これは戦略的な実績づくりであった。
　このときの実験の成果として、浦安に三井不動産によって、日本初の小屋裏利用3階建タウンハウス（設計、日本設計・施工、三井ホーム）が特認で建設された。その後、全国各地にタウンハウスが次々に建設されるようになった。
・昭和62年（1987）11月　準防火地域対応3階建戸建住宅実大火災実験、（於、つくば建研構内）建設省建築研究所・（社）日本ツーバイフォー建築協会共同研究、このときには正3階建ということで建物脇に鉄骨の反力壁を設置して、水平力の加力実験も行った。
　火災実験は１階点火後３階がフラッシュオーバーになったのは７２分後で、小屋裏には延焼せず内装不燃化の威力は期待された性能を全て上回った。数年前に行われた内装を不燃化していない従来の木造２階建の火災実験では15～20分で2階屋根裏まで火がまわり慄然としたが、ツーバイフォーの防火性能には強い感銘を受けた。この実験に触発されて、その後引き続きプレハブ住宅の鉄鋼系・木質系、在来木造軸組み造も火災実験が行われた。
　この時期に木造正3階建戸建住宅が準防火地域で500㎡まで建てられる様になった。
　此処までくれば、次の目標は北米各地で一般的に数多く建設されているツーバイフォーによる中層（５階建て位が多い）共同住宅である。
・平成3年（1991）12月　木造3階建共同住宅実大火災実験
　ツーバイフォーは防耐火性能を次々と実証していったが、木造3階共同住宅は認められていなかった。
平成2年日米林産物協議において、木造3階建共同住宅を解禁することで合意され、法改正にむけて住宅建設業団体協議会（現在の（社）住宅生産団体連合会（略称住団連））の中に新木造3階建共同住宅等開発委員会が設置され委員長に推された。
　このたびはツーバイフォー工法・木造軸組み造・鉄鋼系木質系プレハブが法改正に向けて揃い踏みを目指し、平成2年から建設省建築研究所に協力して、各工法の多数の部材レベルの耐火実験を繰り返し行い、それぞれ性能をクリアーして、その集大成として平成3年12月につくば建研構内で枠組壁工法が代表となり3階建共同住宅の実大火災実験が実施された。
　この時には大地震後の火災発生を想定して、建物に加力して1/100 ラジアンていどの変形を与えせっこうボードに亀裂を生じさせて、そのまま火災実験を行ったが結果は良好で、1階の点火住戸は自然鎮火状態で目標の60分を経過して、隣戸および2階には延焼せず全ての期待性能を満たした。こうして木造3階建共同住宅が防火地域および準防火地域を除く地域で解禁された。
　この時のプレハブ建築協会鉄鋼系の代表委員が瀧沢清治氏、日本木造住宅産業協会の代表委員が福本雅嗣氏で今日に至るまで盟友としてスクラムを組んで活動していられるのは、望外の幸せであると思っている。
・平成8年（1996）3月　市街地における木造3階建共同住宅実大火災実験
　木3共は解禁されたが、本来最も共同住宅が必要とされるのは市街地であり、準防火地域における木造3階建共同住宅の建設を可能とするための技術開発をスタート、建設省建築研究所が国費で実験を行うことになり、前回同様住団連が協力して建研構内に枠組壁工法の3階建共同住宅が建てられた。今回は阪神大震災における市街地火災の教訓から、準耐火木造3階建共同住宅が大震災後の市街地火災で延焼の楯となることが期待された。
　これに先立って当時の建設省住宅生産課から諮問を受け、枠組壁工法3階建共同住宅の四周に木造住宅を配して、周りの住宅が延焼する状態を現出したら如何という提案をした。
　実験は実験建物の北側に市街地火災を想定したボリュームの燃焼バーナーが設置され、南側に2階建の一般的な木造住宅が建てられミニ市街地を造りだし、また大地震後を想定して実験建物にはわざわざ壁に亀裂が入れられた。
　実験建物は折からの筑波おろしをうけて北側の燃焼バーナーで高さ15m以上の炎であぶられ、開けておいた窓から火が入ったが、全焼して倒壊するまでに3時間も耐え、南側の木造住宅には延焼せず期待通りの耐火性能を発揮して、準防火地域における解禁に繋がる成果を上げることが出来た。
　この実験で気が付いたのは枠組壁工法が全焼状態になった場合、床が燃えぬけて上階に延焼してゆくと最後に倒壊する時は、外周壁は全て内側に倒れ横倒しにならなかったことである。
・平成9年（1997）6月枠組壁工法性能規定化
　建築基準法に先駆けて、ツーバイフォー工法が先陣を切ることになり、協会内に日米加の委員、学識経験者が集まり性能規定化検討委員会が組織され、一年有余の検討を行った。これにより工法オープン化以後23年にして仕様規定の枠を脱して、木造４階５階も視野に入れた性能規定化技術基準となった。これが技術部会長としての最後の仕事になった。
　このように、ツーバイフォー建築協会、住団連を通じての公的な活動をしながら、社内での技術開発の実績も積み上げていった。

平成3年12月に建研で行われた木造3階建共同住宅（U&A研究所設計）の実大火災実験

枠組壁工法性能規定化で可能になる事例
（カナダ・ロレンシャン高原のホテル、H16阿部撮影）