阿部コラム

　2階建木質プレハブ「FC」型の開発は会社にとって、満を持しての商品開発となり、これを契機として、今まで各社とも開発記号でネーミング（例えば、永大BK型とかセキスイハウス２B型）していたものを、もっと親しみのある商品名にしようということになり、FC型は「富士」と言う大きな命名がされた。同時に平屋建のBK型は「若葉」と命名された。住宅業界では嚆矢の出来事で、その後の一つの流れとなった。今では、ファッショナブルな名前の住宅があふれているのはご存じのとおりである。　だいぶプレハブ開発になじんできた昭和43年8月会社から東工大後藤一雄教授を団長とする米国プレハブ工場視察団に参加することを命じられ、公式視察日程23日、後は一人で自由視察7日間計1ヶ月の海外出張をさしてもらった。この頃は、未だ外貨持ち出し500ドルの時代で1ドル/290円位の時であったと思う。　米国の中西部のラファイエットのナショナルホームズ社のパネルやモジュラーユニットの工場やサウスベンドのモービルホームショーやモービルホームの工場など見せてもらって、強烈なショックを受けた。当時は未だおおらかで何処でも工場を見せてくれたが、その後日本のプレハブ産業が強大になるにつれて、工場見学は難しくなっていった。　この時に強く感じたのは、日本の木質プレハブのパネルの原型は米国のウッドフレームコンストラクション（2×4工法）で、米国では現場で作られるものも工場のラインで作られるものも同じ形をしていることで、システムそのものの合理性を強く感じた。　また、分譲住宅主体なので、現地で多くのモデルハウスを見たが生活観の演出と華麗なインテリアデザインに瞠目した。当時日本のモデルハウスは家具屋とタイアップして、正札の付いたリビングセットやダイニングテーブルをならべてお茶を濁していた。　昭和44年春、大阪市住吉区の永大産業本社工場の一角に、工場生産パネルでない、現場組み立ての日本的2×4工法を目指して、2階建ED工法ハウスの実大実験を実施することになった。　基準法や学会構造計算基準にない釘接合のみで耐力を確保できるのか？第38条の大臣認定を取るためにも、構造評定委員会の先生方の理解を得るためにも、実大実験で実証しチャレンジする必要があると考えた。まず、耐力壁のパネル単体の強度を確認するために、当時目黒にあった農林省林業試験所の材料試験室長の山井良三郎先生のところへ本社の研究所から若手の所員を送り込んで、単体の剪断力実験を積み重ね強度の確認を行い、この結果を基に改善を重ね実大実験に臨んだ。　この実験は2階建2×4工法のわが国における最初の実大構造実験となった。　実験は杉山英夫先生（当時明治大学教授・建築センター木質系構造評定（委）主査）にご指導を頂き、センター構造評定委員会の先生方にも立ち会っていただいた。　実験は反力壁をつくって押し引きする剪断実験で壁率3倍が得られることを実証した。　当時はわが国では未だ構造用合板は生産されておらず、合板の生産事業部に頼み込んで実験用の物をやっと工場で特別に造ってもらったのだが、それにしても合板会社ならでは有難さであったと思う。　当時は1ドルが290円くらいの時であったと思うが、輸入コストを考えると合板やディメンションランバーを北米から輸入して建てることは考えられず、国内調達を前提に開発を進めた。　昭和44年11月には基本的な開発を完了して建築センター構造評定を申し込み、45年春には評定を終わり、建設省建築指導課に基準法第38条の大臣認定申請書を提出した。前例のない構造方法ということで審査に手間取り翌46年3月にようやく認定された。　大臣認定は取得したものの、いわば現場施工のプレハブとも言うべき商品で、木質プレハブの主力商品と社内的にはバッティングすることになり、最終的にED工法事業部を新設して永大の強力な建材ルートで代理店（工務店）システムを構築することになり、在来木造の将来の危機感を背景に瞬く間に１２００店余の代理店網が出来上がり、一店が一軒建てても１２００戸ということで、実績が積み上がった。　プレハブの経験から代理店には実務研修を義務付け、本社の近隣にED工法の設計と施工組み立て実務を習得してもらう為の宿泊できる研修所を建設して、フル回転で研修を実施した。　この頃には北米の工法への関心が高まってきて、昭和４６年下期には日東工営「アメリカンプレカットハウス」、中村合板「ナプコホーム」、坂巻商店「日本クラウンハウス」等の大臣認定が認められ、ツーバイフォー工法のクローズドシステムの時代が始まった。　その後、当時の澤田住宅局長からサゼッションをいただき、クローズドシステムの業界づくりとして「フレーム住宅懇話会」（会長永大深尾照夫社長）を設立して活動を始めた。当時のメンバーは永大産業、日東工営、中村合板、トーヨーサッシ、日本クラウンハウス、日本ホームズの各社である。　一方、企業の動きと別に北米のツーバイフォー工法こそ、工務店合理化のシンボルであるとする、将来に危機感を持ったホームビルダーの動きがあり、ホームビルダー協同組合として大臣認定取得の動きがあり、昭和４８年（1973）第一次オイルショックの狂乱物価と資源ナショナリズムへの危機感が相乗して、現地規格の製材をそのまま使用して北米の合理的な工法を建築できるよう４９年の枠組壁工法のオープン化にむけて、大きな潮流となって動き出していった。　昭和４８年初めごろからオープン化に向けての建築センターの研究委員会が発足して、先発側の代表としてこれに参加していたが、北米のビルディングコードやカーペントリー（マニュアル）の読み合わせがあり、建築センターから出版された最初の「枠組壁工法設計の手引き」の平面計画篇（壁工法のプランニング要領）を共同執筆した。　わが国の工務店にとって始めての住宅工法であることに鑑み、出来るだけ北米の工法を忠実に建てるべきという方針が採られた。しかし、即輸入構造用合板を使うことは為替レートの問題で困難であろうという状況から、国内合板メーカーに構造用合板の生産促進を求め、モジュールも910㎜を採用した。（現在は輸入合板の4フィート・1220㎜も併用）　当初クローズドシステムで参入した会社に合板建材会社が多かったのも以上の様な理由もあったと思われる。　昭和49年7月にいよいよ枠組壁工法技術基準が施行されることになり、苦労して特認を取ったクローズドシステム各社は技術基準に摺りあわせをして、特認を返上することを建設省から求められた。永大ＥＤ工法も同様の要請をされたが、当初から木質プレハブの経験を生かして独自の技術開発と自由性の確保を意図して、床・小屋等の水平構面を北米の基準と異なる梁・母屋・束等を使える構面で特認を取っていたことを強く主張し、ＥＤ工法のみ特認工法として残された。ＥＤ工法の開発を契機に2×4工法の先陣を走っていたことが、自分の後半生を決めることになろうとは思っても見なかった。〔閑話休題〕＊昭和20年代の東京の材木事情　当時は今ほど輸送力が十分でなかったので材木も貨車輸送が多く、東京では柱桁等は青梅材（都下奥多摩地方材）が良く使われていた。杉や檜の柱など結構きれいな材であった。今でも奥多摩に行くと杉や檜の山林が鬱蒼として春先は葉先に一杯花粉をつけて花粉症の基になっているが、最近御岳のケーブルカーの駐車場にクルマを止めて山上の御岳神社を往復する間に車の屋根が真っ白になるほど花粉が積もって驚いたことがあった。　山から来た角材はじっとりとして濡れているので柱は背割りをして半年くらい倉庫に立てかけて乾燥させて使った。そのまま使えば建ててから割れが入ってひどいことになった。　実は、製材も鉋かけも鑿の穴掘りも濡れているほうが加工しやすいのである。　少し予算のある仕事では柱に檜の無節を使ったが、当時から紀州尾鷲の柱材は別格で仕上げて正寸で軽くプレーナーが掛けてあった。尾鷲材を使うということは、一つのステータスであった。　昭和20年代は造作には無垢の秋田の柾目の鴨居や長押、天井も棹縁天井は秋田の無地の一尺幅板、目透かし天井の場合は一尺五寸や二尺幅のものも銘木屋にはいくらでもあった。　幅広ものは秋田の中杢・春日杉の乱れ杢・霧島の源平板等それぞれの産地の名前を冠したすばらしい天井板があった。これらを作業場で「苧づくり」と呼んでいた竹を細かく裂いて結束した堅いブラシでゴシゴシと擦って木目を起こして天井に張った。これを目起こしと言っていた。当時の世田谷の在は藁葺きの農家があり、壊して建替える情報が入ると直ちに飛んでいって藁葺き下地の竹を買った。わら縄で結んだ部分だけが白く残り、地は煤けて真っ黒になった竹をごま油でゴシゴシ擦るとあめ色になった竹の地が出てきて、まことに高雅な「すす竹」になりこれを床の間周りの造作や欄間や天井の棹縁等に使った。今ではこれも得がたい材料である。