「『起業のお値段』というタイトルの本を出したいんですが、書いてもらえませんか?」昨年4月に出版社から企画が持ち込まれた。起業をテーマにした本の企画を検討していて、内容より先にタイトルだけが決まったと言う。なるほど、インパクトのあるタイトルだ。「書かせていただきます。」と即答し、内容の検討に入った。
編集者の意向は、業種別の開業資金モデルパターンを示すというもの。できるだけ具体的な金額を明記したほうが良さそうなので、最近起業した人達を取材することにした。ただ、テーマが「お金」であり、起業家の財布の中身を明らかにしてもらわなければならないので、すんなりと取材を受けてもらえるかが心配だった。
手始めに、懇意にしているベンチャー企業の社長に取材を申し込んだところ、快く応じてもらうことができた。そして、起業を志したきっかけや創業当時のお金の苦労などを個人の人生観を交えて熱く語ってくれた。引き続き、開業間もない友人知人に声を掛けて取材を重ねると、誰もが、起業に至る自身の半生をドラマチックに語ってくれ、開業資金や運転資金、借金のことなど、お金の事情や苦労も隠すことなく明らかにしてくれた。
単に開業資金のモデルパターンを示すだけでなく、起業家個人の人生模様や苦悩などを生々しく盛り込んだほうが面白くなりそうだ。取材を通じてそんな思いを強くした私は、出来る限り「生の声」を原稿に書き綴った。
しかし、あまりにも生々しい話は、いざ活字になるとインパクトが強い。書き上げた原稿を取材先に送ると、「すこし表現を柔らかくしてほしい」という要望も少なからずあった。そのため、できるだけ強いインパクトを残しつつ、取材先も了解してくれる表現に仕上げるのに時間を費やした。
国民生活金融公庫、信用保証協会、ベンチャーキャピタルなど、日頃、起業家を見極めて投融資している側の人達からは、時に厳しく、時に温かい、起業家へのエールとアドバイスをもらうことができた。
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