地下工法技術の変遷 (1)・・・・筒井 勲

 建築の地下工法技術は、地下水位が高く、軟弱な地盤で深い地下室を安全に、公害を少なくし、安い価格で作る技術として発展してきた。日本の大都市、東京、大阪、名古屋、福岡は何れも河川の沖積平野に位置し、地下水位が高く軟弱地盤である。東京の山の手は関東ローム層で、例外的に地下工法としては難易度が低い。
 地盤の深い掘削によって、山崩れをおこさない工法、山止め工法(山留工法)は土木技術として、都市土木技術として、地下道、運河、河川の改修、護岸、などの分野で発達をしてきた。
 軟弱地盤に地下4階、5階などの高深度の建築物が作られたのは日本に於いては戦後の高度経済成長期の以降のことである、戦前の建築物は殆ど地下1階程度、地下2階が条件が良く、広い敷地に部分的に作られるケースが稀にみられる。諸外国の都市の地下室の状況は寡聞にしてはっきりとは把握していないが日本のような軟弱地盤に深い地下室は少ないのではないか。高地価で高密度の都市空間で深い地下階を地下水位の高い軟弱地盤で作る技術は日本のゼネコンが開発し、発展させてきた技術である。もちろん土質工学としての地盤の安定、土水圧、透水性など土質理論は土木工学を中心に土質工学者が建築工事の特殊解として発展、整備してきたものである。
 建築の地下工法は戦前は設計図に含まれ、旧第一生命ビル、旧明治生命館などの例では山止め計画は建築家の設計行為であり、世界の一般で建築家が設計した。戦後は施工図、施工計画図の範疇としてゼネコンの自由裁量とし日本独自の世界を築いてきた。
 地下工法は、所謂山止め壁と山止め支保工の山止め工法と、建築の地下構築物を如何に山止め支保工として利用し、仮設の資材を節約し、工期を短縮し経済合理性を高め、安全性を高める逆打ちや潜函などゼネコン開発の「○○式××工法」、「特殊工法」と呼ぶ物に分かれる。
 先ず山止め工法の流れについて述べる。山止め壁は仮設として必要最小限の経費の本線レール横矢板工法から止水性、剛性の高い、高価な連続地中コンクリート壁工法までの経済性、剛性、止水性、耐公害性を求めての試行錯誤、発展の歴史である。

1. 戦後の初期段階 親杭横矢板工法
* 本線レール横矢板工法
 鉄道の廃レール(37k、50k)を親杭として1mから1.8mくらいのピッチで打設し松材の横矢板を掛け渡し掘り進める最も簡易な工法であり今でも市中の簡易山止めはこの工法が多い、モンケンで打ち込み、最後に引き抜く、地下1階程度の小規模工事に摘要
* Iビーム横矢板工法
 地下2から3階程度の根切りに摘要、150×300の断面で1mから1.8mのピッチ、デルマック蒸気ハンマーで打ち込み、松材の横矢板を施工して何段も切梁で補強しつつ床付けまで掘削し、躯体完了後周辺を埋め戻しし引き抜く。後には打ち込み、引き抜きにバイブロハンマーを用いる事もあった。
* H型鋼横矢板工法
 Iビームに変わり高度経済成長期になって、H型鋼が生産されるようになって、山止め壁にも使われるようになり更に高深度の掘削が可能になった。当初は打ち込み工法であったが近隣公害の声が高まりオーがー併用、削孔など所謂「無音無振動工法」へと発展していった。
 親杭横矢板工法は、比較的に良い地盤で用いられ、軟弱な粘性地盤の変形やヒービングを防止できず、近接建物の沈下、周辺地盤の沈下などの公害を発生させた。また止水性がなく、地下水の多い場合は、ウェルポイント工法やデープウェル工法などの地下水低下工法が併用された。地下水位の低下による地盤沈下、井戸枯れなどの公害は防げなかった。
* シートパイル工法
 河川の近傍など地下水の豊富な場合は、土木技術であるシートパイル工法が用いられた。勿論、コストの関係で鋼材は引き抜いて再利用し、打撃或いは振動杭打ち機でセットし、振動引き抜き機で抜く、近隣騒音振動は許容範囲が狭まり圧入式など工夫されたが、都市部での使用は困難になった。

2. 高度成長期 柱列工法 (埋め殺し型) 
 柱列工法は打撃打ち込み、引き抜きの公害を減らすためドリル、オーガーなどによるセット、敷地いっぱいに建築するために余掘りをせず柱列を外型枠として外壁を作る、鋼材を捨てても効率優先でいく経済成長期の工法として発展した。
* オーガーパイル柱列工法
 アースオーガーを用いて鋼管柱列をセットしていく工法で軟弱地盤の大阪で始まった。鋼管と鋼管の間の処理が問題でこの間隙をソイルパイルで充填し止水や軟弱粘性土の流入防止を図った。
* シングルソイルパイル柱列工法
 鋼管の変わりに、心材としてH型構を用いる工法でセメントミルクと原位置の土を撹拌しソイルセメントパイルを作り心材を挿入する。杭と杭の間の間隙は少し重ね合わせ連続性を確保する準止水性の山止め壁である。
* ベノト柱列工法
 パレスサイドビルなどで用いられ、鉄道近接、地下鉄近接など近接構造物に細心の注意を払って変形を押える場合に用いられた。局部的には凍結工法なども併用された。

3. 現代の連続壁工法
 現在はソイル柱列から連続ソイルセメント壁に必要な心材を挿入する連続ソイルセメント壁工法と、連続地下コンクリート壁工法が軟弱地盤や重要構造物の地下工法の主流となっている。RC連壁の技術の中心は掘削の安定、安定液、壁の連続性の確保などであるが本設の土圧壁、耐震壁、杭としての利用による仮設費の低減を図る技術も実現している。

本線レール横天板工法    シートパイル工法    シングルソイルパイル工法