わが家の建築履歴・・・・阿部市郎
わが家の建築履歴を振り返ると、最初の家は昭和47年(1972)当時勤務していた永大産業で自ら開発を担当した永大ハウスFC型(木質プレハブ)84.15Fを現住所の横浜市戸塚区に建設した。夫婦と子供二人で3LDK+書斎の合理的且つコンパクトな住宅で、当時住宅誌にも取り上げられた。その後会社の倒産等がありプレハブ部門の整理が終了した頃ツーバイフォーの三井ホームに招かれ、昭和63年(1988)に現在の家を建築した。勿論ツーバイフォーである。
最初の家は16年居住したのみで未だ内外とも綺麗で近所でも新しい方だったので、一度もリフォームらしいことはせず、解体業者から何でこんなに新しい家を壊すのかと不思議がられた。私としては公庫融資を受けられる年齢の上限に近かったので、今思い切って大きな家に建替えないと新築は難しくなるとの思いがあってのことである。
現在の家は準二世帯住宅で2LD・2K+4寝室172Fの家である。計画当初は息子が結婚前であったので、とりあえず結婚しても2~3年は同居できるようにという程度のセミ二世帯住宅を考えたが、その後息子は結婚して鎌倉に中古マンションを購入してリフォームして住まっているので、今になると甚だ中途半端な家となり老夫婦二人で広さをもてあまし気味である。特に掃除機を使っての掃除と半年に一度の床のワックスがけは私の役目で、かなり大変な思いをしている。そのお蔭でわが家の床は何時もピッカピカだが・・・
長年顧客のプランニングをしてきたが、いざわが家の計画になった時に完全な分離型二世帯に徹底できなかったことが失敗であったと思う。(完全分離ならば後から一戸を貸家にする手もある。)息子の家族とは円満で、近くなので頻繁に行き来しているが、同居していたらこうはゆかなかったであろうと思う、「スープが冷めない距離」と言うのは至言である。
わが家は築後19年間に屋根・外装は2度再塗装をしているが、18年目の昨年に内装のクロスと塗装の塗り替えを思い切って実施した。
建具も内部木製建具は全く痛んでないが、外部建具のアルミサッシは、10年目ぐらいにテラス戸のガラスを切って空き巣に入られて、クレッセントを盗難防止対応のものに交換し、ついでに玄関ドアもCP認定錠に交換した。鋼製雨戸もアルミサッシもロック部分は早く痛むので要メンテナンスである。
設備部分は水道の水栓は浴室の給水給湯栓とシャワーヘッドは15年で交換、ガス給湯屋外器も同年交換、台所の給湯給水栓は要バルブ交換時期、トイレのウォッシュレットは12年目に交換と、主として水廻りは寿命が来ている感じで器具を刷新する必要があると思っている。エアコンもリビングと寝室は13年目に省エネタイプに交換した。
気持ちよく住み継いで行くためには、設備機器の劣化と省エネ性能改善を考慮したリモデリングが欠かせない。
住宅の長期維持管理について- 構造技術者として・・・・安部重孝
当会の10周年記念講演において松村先生から、地球環境への負荷の低減ということをひとつの柱として、永く保つ住宅を作っていかなければならないとして、「長期優良住宅の普及促進に関する法律案」が閣議決定されたが、日本では統計上600万戸以上の空家を抱えているとのこと、新築より増改築により優良住宅とすることを期待すべきであり、技術と産業の方向付けが必要であり、そのためには「信頼性が高く安価な既存住宅の診断評価技術」が大事であるとのお話は全く賛同いたしました。
私も木造戸建住宅の自宅を25年目でリフオームいたしましたが、構造体としての木材には特に傷みや腐朽は全く見られず、設備を中心とし内部構造壁の移動なども行う改装・改修により快適な生活を可能にしましたことは2年前のことで、この命題を与えていただいた伊藤さんの・・・単に構造、建材の堅牢化のみならず・・・、改修のよさを実感しました。
集合住宅については、公営住宅ストックの改善活用を目的とした、(財)ベターリビングの「公営住宅ストック最適改善手法評価委員会(小松幸夫委員長)」の委員を務めていますが、改修・改善の判定については、構造安全性、避難安全性、居住性(躯体、設備、内装等)、エレベーター(の設置)そして費用対効果が評価され、補助金がつくことになっていて、都道府県、市町村からの提出がなされています。私は構造安全性について特に耐震性の評価について担当しています。
UR都市機構は、所轄する既存賃貸住宅について、全国的に見直しを行い、改修、取壊し、建替えの評価をほぼ終えて、耐震補強を含む改修工事を実施中のようです。マンションの耐震改修は居住者の問題が最大の問題ですが構造的にも技術的に困難な問題が多く、UR都市機構は時間とコストをかけて計画的に研究・検討しその成果の元に実施を進めているようで、情報公開が待たれます。
しかし、分譲住宅・マンションについては、管理組合が長期維持管理について改修計画を検討し、実施に苦労しているのが現状でしょう。当会としてマンション管理組合支援事業は実施に当たっての各種の問題はあるにしても社会のニーズにこたえる有意義な活動といえましょう。
5月12日に中国・四川大地震により多くの人命が失われていますが、13年前の阪神大震災でも多くの人命が失われました、いずれも建物の倒壊が原因です。阪神震災のその年に「耐震改修促進法」が制定され、そしてその改正・促進が定められ、平成18年から10年間に耐震化率75%(H15)から90%(H27)とする計画と実行が各都道府県・市町村自治体に求められています。
文部科学省は学校建物の耐震化に力を入れていますが、耐震改修評定委員会の委員を務めていて実感しています。各自治体は阪神震災で被害が大きかった戸建住宅の耐震診断・改修の助成など具体的対策をとっていますが、マンションにも対策が及んできています。東京都では「東京都マンション耐震化促進協議会」について、この2月に準備会を設立し、マンション管理組合や、区分所有者の耐震化への取り組みの支援に取り組んでいます。
住宅の長期維持管理の一環として、マンションの耐震診断・改修にサーツとして出来ることを考えてみようと、建築部会で検討したいと思います。
長期優良住宅に思う・・・・太田統士
この何年かの間、「長寿住宅」とか「長寿命健康住宅」とか、あるいは「200年住宅」や「長寿命住宅」、さらには「超長期住宅」等の言葉が住宅産業や不動産業界隈で舞い踊っている。まさに本質が不明のママで言葉のみが宣伝文句として蔓延り、消費者を籠絡しようとしているかのようだ。丁度戦前戦中の日本において、大本営が「神州不滅」「神風襲来」「無敵皇軍」などの漢語を、自身の精神安定剤として根拠のない強がりを唱えていたのに似ている。
国土交通省は、長期優良住宅の普及の促進に関する法律案を2月の国会で通し、超長期住宅先導的モデル事業の提案を募集したことはご承知の通りである。社会的ストックの確保をこれで図ろうとする意図は汲めるが、はたしてこれだけで良いのだろうか。疑問が残る。
現代でいう優良性は見られないが、超長期住宅は各地の重要伝統的建造物群保存地区や川崎市の日本民家園に行けば代表的な建物がゴロゴロ見られる。骨太の構造物を大家族が何代もの世帯を通して、また近隣の住民組織を活かして維持してきた住宅である。設備はともかく超長期住宅の本質とはこういうものであろう。
しかし、小家族主義、少子化政策、後期高齢者健康保険の扶養家族制度廃止策等々家屋を引き継いでくれる子や孫を育まない現代社会である。それぞれの世代が一代限り快適に暮らせればそれでいいではないかという考えや、むしろその方がスクラップ&ビルドで経済も活性化するのではないかという考えも出てくる。この辺りから抜本的に見直さないと、小手先だけの長期優良住宅政策になるのではないか。ことは国土交通省だけの問題ではなく、成る成らないはともかく、このあたりに建築基本法の制定に意味がありそうだ。
私の家は、昭和41年に建てられた小規模工務店の建売住宅である。部屋数や見てくれは高級住宅風であるが、構造的には極めて粗悪な物であることが、昭和47年の増改築時に分かっていたが、母体は昨年までそのままにしておいた。サーツで軸組木造の構造を担当する羽目になって目覚め(?)たことと、耐震改修助成制度に後押しされて昨年(2007)やっと改修を実施した。精密耐震診断の結果は酷いもので、綜合評点0.45であった。
2階の外周壁直下の1階に壁がない、いわゆる御神楽構造であったり、筋かいが柱・はりの交点から大きく外れた寸足らずのもであったり、当然あるべき位置に布基礎がなかったり散々であった。要するに見てくれだけの建売住宅の怖さであろう。私が直接買った家ではないが、家歴の重要さを思い知る好例となった。
設備は時代時代に即したものに更新することはできるが、構造はそうは行かない。接合方法もさることながら矢張り確実な骨太さと、構造計画が重要との認識を新たにした次第。
1・2階の壁のズレ対策(○Aは構造用合板) 筋かい端部の施行不良
住宅の長期維持管理について・・・・滝沢清治
今住んでいる住宅は平成8年12月(1996年)に完成引渡しを受け、以来11年半程経過をし、2年の短期保証(仕上げ、建具、設備等)と10年の長期保証(構造体、防水)期間も終了したので、これからは有料のメンテナンスをして行かなければならないが、住宅企業の「すまいの会」に加入しているので、困ったときには依頼する先の心配はいらない。
この建物には契約で前記の保証と定期点検(1ヶ月、6ヶ月、1年、2年、10年)が含まれていたので、その時期には適切な点検が行なわれ、無償の作業を行なってもらった。
そもそも、この住宅を選定したのは@勤務していた会社の軽量鉄骨系パネル工法住宅で商品的にも安心できたA長らく住宅の設計・研究開発・技術本部等に所属していて、これならと言える商品であったB工業化住宅性能認定制度の制定に関わり、性能認定を申請するための各種実験に立会い、認定資料の作成や評定時の説明等を行なってきて、性能的に評価が可能な工法の商品であったC父親が造った既存住宅を解体する事は配慮が必要であったが、数年前に他界をしていたので、感謝をしつつも自分の意思で決める事が出来たDそろそろ定年が近づき、現役時代の恩恵(社員割引、現業部門が配慮した対応をすると期待?)を受けられる最後の時期(決して自分からは何の要求も、圧力もかけてはいない、反対に自分から足を運び、てきぱきと決め、自分でプランを選定し、仕様、設備等営業が要らない程に纏めておいたつもりだけど、無言の圧力と感じたかもね?)等々であった。
そこで維持管理の状況ですが、10年の保証が切れる前に、入念な診断を行なってくれ状況が理解できるような写真、図、文章による報告書をもらった。
上記のうち、「外壁面にヒビ割れ」は「防水」の10年保証の無償工事だが、すぐにやってもらってもらわず、屋根・外壁の塗装時に行なう事にした。
診断結果の抜粋 費用費用(建築面積:76F・延べ床面積143F)
以上の経過があって、10年半の時に第1回目のメンテナンスとして屋根・外壁の塗装と床下の防蟻処理を行なった。パネル工法の外壁なので、シーリング工事が余分に掛かっている。
戸建住宅では修繕維持費として毎月とか年単位での積み立てをしていないケースが多いと思われ、自分の時代は良いとしても、相続した後、子供の代になった時にどうか?それは引き継いだ者が対応するだろう。
そんな心配より、強度は充分有ると思われるけれど、地震時の被害が無ければよいがと願っている。
次のメンテナンスは@湯沸かし器の取り替えA内装のやり替えがテーマになって来るだろう。
その後は、自分が父親の家を解体したように、使いにくかったり、性能が悪くなったら対応を考えるだろう。
今のプランは企画プランの中から選んだ、親子で住むのには十分で使い易い住まいなのだから。
住宅の長期維持管理について・・・・前田親範
昨年娘の家を「生前贈与」の制度を使い、「スープの冷めない距離」に新築したが、建築基準法改正、鉄骨単価の高騰などがあり、鉄骨造を2x4に置換える苦渋の選択を余儀なくされた。
私の「住宅」に関する考え方は、住宅の構成要素としては、「構造体」と「内外装」、それに「環境設備」の3つであり、住宅の「形や間取り」を決めるのが構造体、「表情や質感」を決めるのが内外装、「快適性」が環境設備と思っている。勿論設計には、住まい手の希望や家族構成、公私の空間などが入ってくるが、それは「住まい手」側が決めることと思っている。
現在私が住んでいる家はS47に建てた築37年であるが、重量鉄骨デッキスラブの3階建で、同一敷地内に2所帯、耐震ブレース部分を共有して建っている。構造はスパン方向はラーメン構造、桁行方向はブレース構造で、隣の姉夫婦の家は事務所兼住宅、私の家は2所帯住宅としてスタートし、約10年毎に3回改装している。現在は、姉から妹に代わり、私達夫婦と合せ3人+2人の小人数であるが、かつては私どもだけでも、5人、7人、5人、2人と家族構成も使用目的も変わって来ている。
私の「住宅」に対するイメージは、構造体は永久不滅なもの、内外装は自由に変えられるもの、環境設備は変遷して行くもので、このためこの3者はそれぞれが独立にメンテ出来るものでなければならない。このため、構造体は重量鉄骨ラーメン構造がベストであるが、当時は角形鋼管がなく、弱軸方向はブレース構造とした。 後日談であるが、構造体は建物外周部にしかなく、間取りや使い勝手は自由に変更出来るものの「住まい手」側の要求でブレースフレームに出窓を作ったり、増築をしたりで、ブレースの移動とか、日の字断面での補強とかを余儀なくされている。軽微なダンパーがあればなと常々考えている。
今回、娘の家の鉄骨を断念した理由は、ルート1でCo=0.3で設計していたが、角形鋼管はR部分が塑性化しているため断面算定時に地震応力を1.2〜1.4倍しなさいと役所構造から云われ(冷間成形角形鋼管設計施工マニュアル)、「これは指針であり法律ではない」と食い下がったものの、時期が時期だけに断念せざるを得なかった。(柱が1サイズ上がってしまい、鉄骨単価の高騰もあって予算に合わない)
2x4を選んだ理由は、S社の考え方、工法が私のイメージに一番近かったことによる。構造体の2x4耐震パネルは内外装と分離独立しており、永久不滅とまでは行かないものの、内外装を20年毎にメンテすれば100年程度は充分持つものと思っている。このため、夫婦、子供2人の4人家族であるが、40坪の敷地に1階、2階、ロフト階とドンガラだけは目一杯大きくし、内部中央に大きな吹き抜けを設け、その回りはぐるっと一周できる回廊、吹き抜け部には1階から2階、ロフト階を貫く二重の螺旋階段、トップライトから吹き込む光と風は全館にみなぎるようにした。この一見無駄とも思える空間は、将来的に「住まい手」にあらゆる可能性を与えるものと考えている。
また、環境設備(快適性)は、水と空気と光からなると考えており、水は分解水、空気は花粉対応の24H換気システム、光はなるべく直接光を避け、トップライトから吹き抜けシャフトを通じ全館に降り注ぐようにした。
左:築37年でも構造体は永久不滅である。中央の耐震ブレースと床剛性だけでも、可也の耐震性能があると考えている。
右:2階の螺旋階段と回廊部分
2階回廊より吹き抜けシャフトを見下ろす。
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