「− 林住期にあって −」・・・・ 鈴木偉之
「林住期」(五木寛之著)によると、「林住期とは、社会人としての務めを終えたあと、すべての人が迎える、もっとも輝かしい第三の人生のことである。」と言ってます。また、その年齢はおおむね50歳〜75歳ということですから、PSATS会員のみなさま方はこの期に入る人達がほとんどで、今や充実した人生を満喫しているのだと思います。 私の場合、定年退職の半年前、たしかPSATSがNPO法人認可前後の頃と思います。その存在を「建築技術」のインフォメーション欄で知り、参加を申し込んだ次第です。その後、退職直前になり、縁あって第二の職場への道が開かれ就職したこと、また、終の住処は筑波山の麓の八郷に構えたこと、職場は東海村に、というように東京とは変な距離をつくってしまいました。従って、PSATSの部会等の会合には益々足が遠のいてしまい、まさに音信不通の会員といったところが現況です。「後悔先に立たず」でした。 このような状態が許されるわけも無く、私自身はこの12月末をもってPSATS退会を決意してました。その矢先に、お見通しのようにこの投稿の指示があった次第です。 さて、前置きが長くなりましたが、私は定年退職までの37年余にわたり、一貫して原子力研究施設建設に関する調査、技術開発、設計、監理等々に携わってきました。原子力特有の厳しい安全規制の考え方は体得してきたと自負しているつもりです。 このような経験を地方にあって、地域の中で生かせないものか模索してました。建設技術のこと特に耐震技術はもちろんのことですが、危機管理、品質管理のこと等も中心に考えてました。品質管理について生かす機会は早くやってきました。それは建築鉄骨製作工場のグレード評価に関する調査員の仕事です。建築鉄骨構造が専門の評価員の先生と協同作業です。対象は主に県内のR及びJクラスです。このグレードのファブでは、作業員のスキルの維持向上は当然必要ですが、むしろ工場のオーナーの意欲をいかにかき立て、品質管理の大切さを理解させることが一番であることを一緒になって考えてきたところです。 ところで、最近の世相を反映した事件、所謂「偽装」問題でありましょう。あらゆる分野で生じてるようです。「構造計算書」、「人材派遣」、「食肉」、「赤福」、「耐火材」、そして「惣菜」等々さらに直近では「配筋ミス」までも偽装・間違いオンパレードです。この結果、信用の失墜、取引の中止、世間の批判等を浴びることになるわけです。これらは全く危機管理、品質管理の欠如でありましょう。このような記事を見るにつけ、微力では有りますが、スキルの再活用を図れて万分の一でも役に立てればと思うところです。 耐震に関することでは、この年齢になって自分自身も学ぶことを知らされたものです。私の職場がある地域にも国の補助があり、自治体のすすめる耐震化事業による木造住宅耐震診断が行われてます。`04新潟県中越地震、今年の能登半島地震そして新潟県中越沖地震と大きな地震が相次ぎ多くの木造住宅が被災しました。当該地域住民もようやく気になったようで耐震診断を希望する人達が現れて、私も10数棟担当しました。診断結果を依頼者に報告するのですが、「倒壊の恐れ有り」と知らせると、大抵の依頼者はこの地域は地震がないから原子力研究所を誘致したはずと言われたり、中には耐震補強で家の中のあちこちいじられるのはこの歳になっては煩わしいと言う。また、高度なことも聞かれます。来る地震の規模、その期待値、建物の固有周期さらにはスペクトルは等々あります。専門的なことの説明を謂わば素人さんにどう伝え、理解してもらうか難しい場面に出くわせることも有ります。同じ分野の中で経験のある人が経験の少ない人に伝え理解をしてもらうのとは違い全くの素人さんに伝えることの困難さがあり、何かヒントはあるか頭を悩ませてました。或る時、「地震の揺れを科学する」と題する本に出会い、コラム欄にフーリエスペクトルのことが書かれてました。そして入門書の一つとして「フーリエの冒険」が紹介されてました。 早速入手したところ、この本は言語交流研究所の方々が小学生から専門家まで読める物語になっていて、またマンガ風書き方で大変分かり易く出来ていると思います。こんな説明なら素人さんにも理解してもらえるだろうと思った次第です。建築技術についての専門の人が全くの門外漢の方にどう伝え共通の認識を持ってもらうか、大切なことと感じてます。原子力でも少し前までは「絶対安全」といわれてましたが、原発サイト近辺の住民にとっては安心かどうかだったのです。昨年、改訂された原発耐震設計指針は「残余のリスク」に言及してます。 私はこれからも地方の市井の一建築技術者として、この輝かしい林住期を自己本位のためでなく隣の素人さんにも理解を得られるように自らも学ぶ姿勢を持ち続けられたらと思っているところですが。・・・・。 |