「人口減少と超高齢化」・・・・ 小畑晴治

 一昨年の退職まで、ものづくりに35年も携わった者として、開発志向から抜け出せない社会に理解を示したくなる反面、「時代が大きく転換していることに、しっかり目を開いて!」と叫びたくもなる。
 小さな財団で、半ば現役で勉強と仕事(調査研究)をする中で最近分かってきたことは、人口減少と超高齢化の深刻さである。夕張市の財政破綻状況を目の当たりにし、意識が変わった方も多いと思われる。生煮えの問題意識かもしれないが、「一考」の雑感を述べてみたい。 
 昨年暮、国立社会問題・人口研究所が下方修正で発表した「日本の将来人口予測」によると、2055年には総人口が9000万を割り、2105年には4500万になる(中位推計)という。これまでの推計では2100年で約6000万(中位推計)であった。正月明けに、合計特殊出生率が1.25から1.29に回復したことが分かってよかったという報道があったが、全く脳天気である。合計特殊出生率は、子供を産める状況にある女性人口の中でどれだけ子供が生まれたかという状況であるが、本来2.0(リスクを加味すると2.08)でやっと現状維持可能ということである。約30年前から一貫して下がり続けたこの合計特殊出生率のために、そもそも親となる人口の母数となるべき若い人が漸減してきている点を加味すると、たとえ2.0まで回復してもまだ人口絶対数は減り続けるのだという厳しい日本の現実をよく知る必要がある。
 日本は人口は減った方がうまくゆくのでは、などという楽観論が無い訳ではない。しかし、楽観論の前提で特に問題なのは、今の均衡で相似形に縮むのかどうかである。65歳以上の高齢者比率:2005で20.2%は、2030年で31.8%、2055年では40.5%に達し、ほぼ横ばいで2105年の40.6%(いづれも中位推計)まで続く。世界のどの国も、未だかつて経験したことのない超高齢社会である。因みに、東北や山陰の2005年の高齢者人口比率は、青森県:22.1% 岩手県:24.0% 秋田県:26.3% 鳥取県:23.7% 島根県:26.5% ・・・全国平均でそれを約18ポイント上回る状況となる。また東京も2015年に23.8%と今の青森・岩手を上回る。(2002年推計値)
 状況改善の困難さは、諸外国で子育て支援や出生率回復に真剣に対処してきた状況と、日本で状況認識さえまだ不十分な点を見比べれば分かる。出生率が劇的に回復したフランスは、人口減少への危機意識を20年以上前から持ち続け試行錯誤してきた。スウェーデン・デンマークも、国家の取り組みを長期に続け、ようやく出生率1.7~1.8まで回復させた。女性の社会進出、育児休業制度、男女共同参画は勿論、母子家庭や私生児への手厚い支援、養育困難者の育児放棄に備える『赤ちゃんポスト』設置などまで総動員の結果であるが、フランスも北欧も婚外子の比率は過半数である。
 この30年間で、日本の世帯(家族構造)の種別がどう激変したのかは、国勢調査のデータ分析(下図)でわかる。このグラフを見て驚くのは、全世帯中で18歳未満の子供の居る世帯が、過去30年間で激減し、国平均で28%、東京区部では18%になってしまったとことである。1990年頃、ピーター・カルソープが、米国の世帯構成の割合(18歳未満の子の居る世帯が3分の1)と、郊外に膨張しつづける戸建住宅地とのミスマッチぶりに気づき、環境に優しく、コミュニティがよく機能し、防犯性の高い、歩いて暮らせる『ニュー・アーバニズム』のまちづくりを提唱した。現在の我が国は、当時の米国より遙かに少子高齢化が進んでおり、ずっと深刻であることを一人でも多くに訴えたい。