「ツーバイフォー耐火建築物 !」・・・・泉 潤一


 2001年12月の会報誌011号で「木造耐火建築物?」と題する拙文を掲載いただいた。今から6年前のことである。建築基準法が性能規定化されて施行された翌年のことで夢を語った覚えがある。それまでは可燃物で耐火建築物など有りえず、まさに非常識な発想であった。時を経て今ではツーバイフォー工法の耐火建築物が確認申請ベースで累積700棟を超える現実になった。

 さて当時、仕様規定の縛りが廃止され門前払いは無くなったものの、そこからの道のりは決してたやすいものではなかった。耐火建築は火災終了後も建物が倒壊しないことが建築基準法で定められており、これが性能規定の要求である。これを木質構造の建物に当てはめると火災が発生して収納可燃物が燃焼しても建物倒壊に至る構造材の燃焼がないことということになる。例えば耐力壁の1時間耐火構造の試験の場合、長期許容応力度に相当する応力が生じるように荷重を掛けながら1時間加熱した後、試験体を炉内に放置したまま完全に温度が下がるのを待って炉から取り外され構造材の状況が調べられる。1時間の加熱中炉は蓄熱されているので加熱を止めても相当長い間炉から熱を受けることになり、試験体が炉から外されるのが試験開始から5時間以上要することはざらである。構造材に炭化があったとしても荷重支持能力が維持されていることは確認された訳であるし、炭化痕からその後燃焼に発展することはないのでこの段階で基準法の要求を満足していると言いたいところであるが、判定基準は構造材の僅かな炭化痕すら認めない。

 私は(社)日本ツーバイフォー建築協会の技術委員を兼務しているため協会として耐火構造の大臣認定を取得するための開発に携わった。断熱材の入った壁では裏面に熱が逃げにくいため木部表面温度が上昇しやすく特に厳しい結果となり、開発の多くの時間がこの仕様開発に当てられた。数多くの実験の末、強化せっこうボード15mm+21mmの間にアルミ箔を挟む被覆仕様でクリアでき実現に至った。判定基準がかなり厳しいという印象は拭えないが、それでも性能規定化によって少なくとも色々な素材や工法に機会が与えられたということは建築技術者にとって大変喜ばしいことである。ツーバイフォー工法のみならず性能規定化を契機に木質構造の火災工学は飛躍的に技術の進歩を見たのではなかろうか。さて、(社)日本ツーバイフォー建築協会はカナダ林産業審議会と共同で各主要構造部の耐火構造大臣認定を無事取得し2004年7月から確認申請がスタートした。それ以降広く様々な申請者が多様な建物を建築している。具体的には住宅用途以外に社会福祉施設、商業施設、ホテル等の公共施設、階数では4階建てや1階部分をRC造とし上4層をツーバイフォー工法とした5階建てなどの実績もある。  写真1は東京都内に建てられた2階建て戸建て住宅の事例であるが湿式の外壁とツーバイフォーならではの瀟洒なデザインにより防火地域に多く見られる無機的な鉄骨造ALC外壁の町並みに対し新しい可能性をもたらしている。

 また写真2は大分県に建てられた地上2階(ツーバイフォー工法)、地下1階(RC造)の特別養護老人ホームである(吉高綜合設計コンサルタント設計)。延べ床面積4469.23Fのうちツーバイフォー部分が3801.36Fで我が国における過去のツーバイフォー工法では実現できなかった規模・用途の建物である。開設されて2年が経とうとしているが室内の温熱環境や職員の足の疲れが少ないなど木質構造であることの高い評価を得ている。

 これらはほんの一例に過ぎないが性能規定化によって木質構造に新たな門戸が開かれた結果、建物使用者にも木質構造のメリットを享受する選択肢が増えたことで社会に還元していると感じているがいかがであろうか?

  写真 1                 写真2