- スエズ運河通過の一ヶ月後、8月17日(日)、パナマ運河を通過しました。パナマ運河は、カリブ海と太平洋を結ぶ全長80kmの運河です。開通は1914年、米国の管理下に置かれていました。
パナマ運河は、水路式のスエズ運河とは違い閘門式(lock gatetype)の運河です。平野の広がるスエズ運河とは異なり、パナマ運河は丘陵地帯に建設されたからです。丘陵の標高は26m、運河はこの丘陵を越えなければならなかったのです。
当初、パナマ運河もスエズ運河と同様に海面レベルの水路式を計画したそうです。しかし、経済、技術の両面から現在の閘門式に変更されました。
最近、この閘門式を、また水路式に作り変えようという計画があります。閘門式のパナマ運河では、最近、多くなってきた10万トンを越える巨船が通過できません。また、閘門式は、その運用に大変手間がかかるのです。当時、経済的、技術的に建設が不可能だった水路式が、現在の技術によって可能になってきたのです。
丘陵の上にはガトゥン湖があります。この湖は、パナマ運河のために造られた人造湖で、この閘門式運河では重要な役割を果たしています。まず、閘門の注水には、ガトゥン湖の淡水が利用されます。また、この湖がパナマ運河の主要な水路ともなっているのです。
パナマ運河では、閘門を利用して船を先ず標高26mのガトウン湖の水面まで上昇させます。この上昇には3つの閘門を利用しますから、一つの閘門での船の上昇は9mです。また、同様に3つの閘門を利用して船を海面まで降下させます。結局、パナマ運河では、上昇、下降のために船は6つの閘門を通過することになるのです。運河には、この閘門が往復2レーン、計12基設けられています。
閘門は、長さ305m、幅33.5m、高さ25m、水門は両開きの巨大な扉です。船を上昇させるために、この閘門にガトゥン湖の淡水が注がれます。各閘門に流入する淡水は約19万7千トン、船を降下させる時には、この淡水を海に放流します。この淡水の注入には、標高26mのガトゥン湖を利用するため、この莫大な水量を動かすポンプもモーターも要りません。また淡水なので、運河の諸施設は塩害から免れるのです。ガトゥン湖なくしては、パナマ運河は成立しなかったのです。
閘門の底から湧き出すガトゥン湖の淡水は、 閘門の水面を波立たせ、私の乗る3万4千トンの巨大な船体を見る間に9m上昇させました。両開きの巨大な水門は、水圧に耐え正確に作動しました。よく見ると、この水門は一か所に2基設置してあります。安全対策でしょう。もし、この水門が閉止できないと、ガトゥン湖の淡水は、全て海に流れ去ってしまうのです。
閘門から閘門への船の移動は、極めて微速な自力走行でした。その時、閘門の両岸では、各3台の電気機関車がロープで船を誘導しました。牽引ではありません。船が微速で進む時は、舵は十分に機能しないのです。狭い閘門の岸への船体の接触を避けるために、この誘導が必要なのです。この電気機関車は三菱製でした。運転手が人懐こく手を振っていました。
遥か遠い日本に思いを馳せました。初夏の晴海を出港して65日が経っていました。
|