「世界一周の船旅」・・・石福 昭

 世界一周の船旅をしました。この世界一周に、私の乗った3万4千トンの客船は、約三ヶ月を費やし、17の港に寄港し、16ヶ国を訪れました。寄港地より訪問国が一つ少ないのは、米国で二つの港、ニューヨーク港とアラスカのスワード港に寄港したからです。船の旅から見ても米国は大きな国でした。
 私にとって、世界一周は二度目の経験です。一度目は40年ほど前、羽田空港を出発し、一ヶ月をかけて飛行機で世界を一周しました。同じ世界一周でも、船の旅と飛行機の旅では、その印象は全く別物でした。この二つの旅から得た地球認識にも、大きな違いがありました。また、この地球一周の船旅は、私にとっては、人生観が変わるほどに感銘深いものでした。
 船の旅で、最初に印象的だったことは、手荷物の持込です。飛行機で海外旅行をする時、まず問題となるのは、持ち込み手荷物の重量制限で、普通、エコノミー20kg、ビジネス30kgです。ちょっと長旅の場合、この重量制限は最大の悩みの種です。上手に手荷物を纏めることは、海外旅行の大切なノウハウとなっています。
 船に乗る時、旅行会社への私の最初の質問は、手荷の重量制限のことでした。ところが、その答えは拍子抜けするほど簡単なもので、「いくらお持込になっても結構です」ということでした。あとで旅行約款をよく見ると、重量制限は500kgとありました。これなら、いくら持ち込んでも問題にはならないでしょう。パソコンとプリンター、それに風炉まで揃えた茶道具一式を持ち込んだ人もいました。私の場合は、大型スーツケース二個とダンボール箱二個となりました。
 さて、この大量の手荷物を、どうやって船まで運ぶのか。実は、それもいたって簡単でした。旅行会社指定の宅配屋さんに電話すると、出発の前日、この手荷物を自宅まで取りに来てくれたのです。翌日、案内された船室には、その手荷物が、すでに運び込まれ、私を待っていました。
 シャワールームのあるこの船室は、私の自宅よりよほど上等でした。メイドは金髪のウクライナ女性で、三ヶ月間の航海中、一日の休みもなく行き届いたサービスをしてくれました。手荷物をクローゼットに収めてしまうと、船室は我が家となり、むしろ我が家以上に寛いだ空間となりました。小さな船窓からは、光る海が見えました。
 大きな汽笛を響かせ、船は初夏の暮れ方、晴海桟橋を出港しました。この汽笛を航海の終わりまで出港の度ごとに聞くことになりましたが、聞く度に、訳も無く胸の詰まる思いをしました。出港には、誰もが感傷的になるようです。さて、いよいよ三ヶ月にわたる船の旅の始まりです。
 スエズ運河、パナマ運河を経て再び晴海桟橋に帰港した時には、すでに秋が始まっていました。

船室風景1

船室風景2

メインダイニングルームでのお出迎え

船内のナイトショー