「蝶の舞う姿を求めて!」・・・・浅野忠利

 子供の夏休みの宿題であった昆虫採集をきっかけに、蝶を追って20年が過ぎました。初めは、アゲハ蝶やタテハ蝶などの比較的大柄の派手な蝶を追いかけていましたが、次第に絞り込まれた結果、今はわが国に25種と言われるミドリシジミの舞う姿を求めて、毎年ミドリシジミの出現期である5月末から8月初めにかけて、週末毎に全国を駆け巡ります。ここ7,8年は、もっぱら、ミドリシジミ一筋です。幸い、25種のミドリシジミ総てに巡り遭えることができました。
 蝶は世界で18,000種と言われていますが、対してわが国の土着種は 230種に過ぎません。ミドリシジミはそのほぼ1割に当たりますが、その美しさは群を抜いています。
 ミドリシジミは、ギリシャ神話で語られるZephirus[西風の精]と呼ばれ、僅か、15mmから30mmの小さな蝶の群れですが、雄の多くの青緑色の羽表と雄雌共通の灰紫色の羽裏の落ち着いたたたずまいは、緑の中で輝く宝玉です。
 ブナの森でミドリシジミの舞う姿を記録に留めることに熱中しています。8mの長い補虫網とビデオカメラと35mmの一眼レフを抱えて、山をさまよい、ミドリシジミ達に巡り遭えたときの無常の喜びは、何物にも替え難く、彼女らの生命力と種の保存への飽くなき執念に感動し、畏敬を覚える瞬間に総てが集約されます。
 蝶の楽しみには、行き遭えたときの喜びとはまた別に、計画を立てる楽しみがあります。このために毎朝5時半に起きて、約1時間、年間計画、月間計画、週末計画に時を費やします。計画を立てるには多くの情報が必要です。先ず、目的とする蝶に関する可能な限り詳細な情報を集めます。私は成虫だけを追いかけていますので、成虫の飛翔に関する雄雌別々の習性(速度、地上の高さ、縄張りの有無等)、産卵する植物(幼虫の食べる植物―食草)の種類、吸蜜する植物、出現する時期・時間帯、過去約15年間の採集記録、過去約10年間の気象(天気図、晴れの確立、気温等)、そして何より採集地の詳細な状況の把握に努めます。こうして、各週末毎に2〜3の候補地を選び、週末の天気予報によって、前日に週末計画を確定します。
 今年もいよいよシーズン到来です。昨年は4,5月の低温で時期遅れ、発生個体数も少なく苦労の多いシーズンでしたが、今年は雪の多かった冬でしたが、4,5月の高い気温のお陰で、恵まれたシーズンとなりそうです。