「最近読んだ本」 ・・・・矢作和久

■ 武士道/新渡戸稲造 著/岬龍一郎 訳  
映画「ラスト・サムライ」が大ヒットして、にわかに武士道が注目され、書店の店頭には関連する書籍が山と積まれている。中でもこの本が売れているようである。著者は5千円札の新渡戸稲造。原本は「Bushido:The Soul of Japan」。1999年(明治32年)にアメリカで出版された英文の本で、そのとき著者は38歳。新渡戸の国際人としての地位を築いた出世作だそうである。  序文には、あるときベルギー人の友人から「宗教教育のない日本の学校では、どのようにして道徳教育を授けるのか」と質問されて、すぐに答えることができなかったが、その後このことを分析してみて、それは武士道だと気付いた。また、妻(アメリカ人でクエーカー教徒、新渡戸もクエーカー教徒)からも度々、なぜこのような思想や道徳的習慣が日本中にいきわたっているのかと質問されていて、それに納得のいく回答をしたいと考えていたことが執筆の動機だと書いている。欧米人に日本思想や文化を伝えるという意図で書かれた本である。外国人にこういう本が読まれているのかと認識を新たにした。  内容は、義、勇、仁、礼、誠と言った武士道精神が、単に日本にだけに存在する特殊な思想ではなく、論語や騎士道、ジェントルマンシップなど類似の規範が存在し、シェークスピア等の文学作品や欧米の著名な哲学者の著作にも共通するものを見つけられると、広範な知識を駆使して解説していて解り易い。知識の広さに感嘆もした。  しかし、新渡戸の友人の問いかけは現在の日本人にも通じる質問である。小学校1年生の孫に道徳の時間は何を勉強しているのか質問した。「変なビデオを見て先生のお話を聞くの」だそうである。明治時代なら武士道でも良いが、現在ではそうは行かない。日本国憲法前文の精神は当然の題材だと思うが、「輸入思想」の感が拭えず儒教的ではない。特定の宗教に拠れば憲法違反である。自然保護、環境保護はぜひとも取り上げて子供たちに教育して欲しいテーマであるが、枝葉であって根幹ではない。武士道は封建制と儒教精神に依拠している。民主制と儒教精神の融合を模索する必要があるのであろうか。映画を見、この本を読んでそんなことを考えた。
■出版社/PHP研究所
■A5版204頁 = 1,200円+税