■NPO法人の税務/田中義幸 著
NPO法人を含む非営利法人の分野でここ数年の間に起きていることを見るとわが国の政治や社会がいかに混迷を深めているか、よくわかる。混迷の一番の原因は何かというと、小泉内閣が広げた改革という名の大風呂敷である。
昭和25年のシャウプ税制以来、公益法人、学校法人、宗教法人などのいわゆる非営利法人に対しては、収益事業を営んでいる場合にのみ課税するという制度が適用され、国民の間に広く定着してきた。
ところが小泉内閣はこれを根底からひっくり返して、ただただアメリカ型の免税制度に持っていこうというのである。これに対して、非営利法人の中では新興のNPO法人が大きな抵抗勢力となって小泉内閣の前に立ちはだかった。選挙を控えて大やけどをおそれた小泉内閣は、ひとまずは手を引っ込めた格好である。しかし、平成15年6月27日に閣議決定が行われた「公益法人制度の抜本的改革に関する基本方針」では構想が頓挫したことの悔しさをにじませながら、アメリカ型への移行をまだあきらめていないことをうかがわせている。
本書は、NPO法人の税務についてNPO法人の経理担当者や、税理士、公認会計士などの実務家向けに解説した、ただの実務書である。しかし、それだけならわざわざ本にするほどのことはなかった。本を出す誘引には、多少自分の言いたいことがいえるということがある。
非営利法人は、もともとなぜ非課税なのか。そして、わが国の制度がドミノ倒しのように次々にアメリカ化していく背景に何があるか。アメリカ帰りが多くなりすぎたことが原因だと数学者の藤原正彦氏は書いている。確かに、新たな制度を創造する場合には何よりも経験に裏打ちされた社会観が不可欠なのだが、今の政策立案者や有識者はわずかな留学体験に頼るしか思考回路がなく、政府はそれを受け入れているだけのように見える。こうしたわが国の現状はまことに憂うべきものだと、言わずもがなのことを言いたくなったのも、この本の執筆動機の一つにある。
■出版社/税務経理協会
■A5判 252頁 = 2,000円+税