■「建築物の損傷制御設計」    
■編者/和田 章、岩田 衛、清水敬三、安部重孝、河合廣樹
■出版社/丸善株式会社
■B5版・220頁=5,400円+税

 この一冊は、建築構造のあるべき姿、将来の進むべき方向を明快に示してくれている。しかも、そのような建築構造物が実現するための具体的な設計方法を、分かり易く解説している。
 1995年の兵庫県南部地震において、崩壊・倒壊には至らなかったが大被害を受け、修復するのが非常に困難で、結局取り壊さざるを得なかった建物が多くあった。これらの建物に対して、国の立場としては、建築基準法は大地震時に「人命の保護」という役割を十分果たしたし、最低限の基準であるからこれで良しとしている。一方、建築主・ユーザ等は、大地震を受けても「人命の保護」は勿論のこと、短期間の補修・補強により継続使用ができ、経済活動をすぐに再開できる建物を所有していたと思っていた。ここに、建物の所有者の考えていた耐震性能と法が規定していた性能との乖離が生じた。
 そのため筆者等は、大地震を受けても、構造骨組は弾性的挙動をさせ、制振デバイスの塑性変形により地震エネルギーを吸収してしまおうという損傷制御設計を提案している。この設計法により、大地震後でも、構造骨組はほとんど損傷せず、制振デバイスの補強あるいは取り替えのみで、持続的構造を実現させている。
もとより耐震工学は、地震という不確定性の高いものを対象としていること、一品生産であるための材料、施工のバラツキを考慮にいれなければならないが、本書では、地震リスク・アナリシスの研究成果、信頼性工学の手法を適切に取り入れて、綜合的に安全性、損傷度を論じているところが高く評価される。
 平成10年6月建築基準法が改正され、性能規定型設計法に移行した。そこでは、目標性能を明確にし、設計された建物が、その目標性能を満たしていることが確認できれば、設計・計算法はどのような方法を使用しようと自由であり、設計者の裁量にまかされている。従って、本書のような新しい理念、哲学に基づいた設計法の開発こそが、今後期待されている分野である。(菅野 忠)