自著によせて・・・・松村秀一

■建築とモノ世界をつなぐ/著者:松村秀一
 サーツ立上げの検討が始まる直前の1年半ほどの間、新建築住宅特集誌に「ネオ・ヴァナキュラー考」(1997年2月から1998年5月まで)という連載を続けていました。今から思えば、それまでに書き溜めていた住宅生産に関する論考を2冊目の単行本「『住宅ができる世界』のしくみ」(彰国社、1998年刊)にまとめようとしていた時期とも重なり、私としては、近代建築の理念や歴史と目の前にある住宅産業の現実とを、何とか結び付けて論じきってみたいという、大学院時代からの研究上の野心に、一旦決着をつけようとしていた懐かしい時期の連載です。現代建築の諸相を、建築界に属する読者がまだ目にしたことのない語り口でと、毎月意気込んでいたのを思い出します。
 本書は、その連載の内対談や鼎談等一部を除き、「第1章工業化社会の中での建築作法」、「第2章 地域資源の編成法」、「第3章 生活者社会に根付く」という構成にまとめ直したものです。すぐに単行本化したいと思いながらついつい月日が経ち、世紀末を越えてしまいましたが、私にとって思い出深い連載が再び多くの人の目に触れる形になって、正直嬉しく思っています。
 本書で扱っている題材を列挙しますと、剣持さんの「規格構成材建築方式」、初期プレハブ住宅のプロトタイプ積水ハウスA型、大野勝彦さんのユニット工法の構想、ジャン・プルーヴェの創作スタイル、日本の工務店の世界、瓦と衛生陶器そして杉の産地、ハブラーケンの思想とSI住宅、DIYとホームセンター型建材流通等ということになります。モノづくりとしての建築を考え直す上で、重要な示唆を与えてくれる題材ばかりだと思います。本書に書き綴った私の考えはさておき、これらの重要な題材にさえ触れて頂ければ、本書の役割は果たせたことになると思っています。
■ 出版社/ 彰国社
■ B5版 202頁=2,100 円(税込)