「自著によせて」・・・・松村秀一
■建築生産/松村秀一、秋山哲一、遠藤和義、角田 誠、五條 渉、田村伸夫、田村誠邦、平野吉信 著
ここ数年、建築学科の卒業生の就職先は多様なものになりつつあります。従来のように、建築学科卒業=建築設計者、建築施工管理技術者、建築系公務員というようなわかり易い図式ではなくなってきているのです。このことは、短期的に見れば、新規建設の需要が減少し、そうした職場での求人が以前よりも減っているという事情の反映だともとれますが、より長期的には、建築生産を取巻く環境が大きく変化し始めていることの現れとして認識する必要がありそうです。
端的に言えば、設計開始から竣工・引き渡しまでが建築生産業務の主要な部分だったのが、その前段階にあたる事業企画、各種の発注業務、そして後段階にあたる維持管理、再生、解体、廃棄といった業務の重要性が増してきているのです。そのため、そうした業務に関係のある職場に就職する卒業生が増えてきているわけです。ですから、これから建築を学び、その成果を社会還元や自己実現に結び付けたいと思う人は、それらの段階も含めて広く建築生産の仕組みを理解しておく必要があります。
著者グループが、2004年というタイミングで新しい「建築生産」の教科書を出版しようと合意した背景には、こうした共通の時代認識があり、それに相応しい教科書が見当たらないという事実がありました。
多くの大学には「建築生産」或いはそれに似た名前の科目があり、本書はその教科書として編集・執筆されたものです。従来「建築生産」と言えば、「建築施工」のことばかりイメージしがちでしたが、本書では設計はもちろんのこと、その前段階の事業企画、発注戦略や建設後のファシリティマネジメント、更には解体・資源循環までを対象にしています。ですから、本書は大学の教科書としてだけではなく、現在建築業界に身を置く者が現状を幅広く理解し、これからの事業のあり方を考える上でも役立つ内容になっていると思っています。
■出版社/市ヶ谷出版社
■A5判276 頁= 3,200 円+税