自著によせて・・・・松本信二

■ ハイパーサーフェスのデザインと技術 −やわらかな時代の建築に向けて−/監修:瀬尾文彰、松本信二
雑誌の連載記事の単行本化
  直線・平面や幾何学的な曲面ではなく、自由な曲面形状の屋根や壁面を有する建築デザインが急速に増加しつつある。本書では、このような自由曲面をハイパーサーフェスと称している。
 ハイパーサーフェスが建築デザインの一つの潮流になりつつある技術的背景には、いうまでのなく、コンピューター技術の急速な発展がある。CAD技術を駆使することによって、自由な形状のデザインが容易に作図できるようになった。また、自然環境問題への意識が高くなり、自然と調和する「やわらかい」デザインが好まれるようになってきたということもある。
 しかし、このようなハイパーサーフェスを実現しようとすると、いろいろな問題がある。まず、構造計画をどのようにするかという問題である。構造システムは単純化しておき、表面だけを複雑な形状にするという方法が最も現実的である。しかし、このような方法は、いわゆる「はりぼて方式」であり、構造システムの独自の美しさを表現することはできない。できれば、ハイパーサーフェスにふさわしい特有のスマートな構造システムでありたい。
 ハイパーサーフェスにおけるさらに大きな問題は生産システムである。これまでのハイパーサーフェスは、手造りが基本であり、ふんだんに手間と時間をかけて実現していた。しかし、これからのハイパーサーフェスは、彫塑的な特殊な建築だけではなく、一般的な建築に適用できるものでなければならず、生産システムを大幅に合理化しなければならない。
 ハイパーサーフェスを実現するためのこのような問題を解決するために、筆者等は、1992年に「自由曲面構法研究会」を発足させ、多面的に検討してきた。まだまだ検討は十分であるとはいえないが、現実の建築界が急速に進展しており、とりあえず一冊の本として出版することにした。できるだけ多くの方々からご意見をいただきたい。
■出版社/ 彰国社
■ A5版191頁=2,300円(税別)