最近読んだ本・・・・松本信二

■ 第六大陸 1,2/著:小川一水
 日本SF大会という行事が毎年開催されている。SFファンの集まりであり、各種の講演・展示やパネルディスカッションが行われる。数年前に、月面基地建設の話をして欲しいということで、このSF大会に招かれたことがある。
 そのときに、普段はあまり会うことのない種々の興味ある人々に会うことができた。小川一水という若いSF作家にもこのときに初めてお会いした。しかし、その後は彼と会う機会は全くなかた。
 ところが、昨年(2003年)の3月頃に突然メールが送られてきて、取材をしたいと言ってきた。彼は名古屋に住んでいるが、他の用事も兼ねて上京してきた。私のオフィスで2時間くらい話をし、いろいろな資料を借りて帰った。
 彼は、月面上でコンクリート構造物を造る技術に興味をもっており、その関連の取材を行ったのである。彼自身もコンクリートユニット同士を月面の環境を利用して接合するアイデアをもっており、この小説にもそのアイデアが登場する。
 6月になると、本が出版されたということで、私のところへ第1巻が送付されてきた。彼は本当に筆が早いようである。8月になると第2巻も送られてきた。
 話の内容は、日本の建設会社が中心になって、月面上にコンクリート構造の結婚式場を建設するというものであり、SFというよりも、近未来小説と言ったほうがいい。第六大陸というのは、地球上に5つの大陸があるので、月が6番目の大陸だという意味である。
 建設のプロセスで種々の問題が発生し、それなりにスリルがある。宇宙開発における技術的な問題や政治的な問題がリアルに捉えられており、非常に感心した。アメリカや中国の宇宙開発機関とも関わっており、各国とのやりとりが、面白い。
 著者自身も、お金に関する問題以外はできるだけ実現可能な技術を取り上げたと言っており、近い将来に実現しそうな話である。宇宙開発を推進している機関に対しても、ある種の警鐘を鳴らしているように思う。
■出版社/ 早川書房
■ B5版349頁=714円(税込)